「おはようございます、イルティネさん」
いつもの様にユニッセが浸入してきた。
「ああ」
「…………今日は、どうしますか?…昨日はかなり疲れていたようですが、休憩しますか?」
ユニッセの顔は心配そうな顔を見せている。
「…どうせ暇だし。行くよ」
ここに居ても、何も変わらないのは何となく分かっている。何かしなければならない。
昨日の夜から考え続けた結果、コトラに、いきなり怒鳴った事を謝ることにした。
自分はあまり酷い事をしたつもりは無いのだが、コトラにだけ謝らせておくのは後味が悪い。
時には自分の非を認めるのも魔物関係を円滑に進める為には重要だ、と前にユニッセが言っていた。多分人間にも通じるだろう。
「そうですか。じゃあ、早速行きましょう」
「朝から?」
「一日中居た方が、暇で無くなる確率もあがります」
ユニッセは小さく微笑んでいた。
――ヴゥン
転移の衝撃に力を入れて耐える。
今日はユニッセの用意したお弁当もあるので気絶して中身をひっくり返す訳にはいかなかった。
こちらの天気も同じく晴れだった。泉は昨日と一昨日と変わらない。
私は泉には寄らず、草の広場を囲んでいる手ごろな大きさの木に登った。
やはり高い所から眺めるのは気持ちが良い。上から見たら、泉は綺麗な円の形をしていた。
――ガサガサガサ
後ろの方から何か近寄って来る。……コトラだ。
だが、コトラは葉の生い茂った枝の間にいる私に気付いていないようだ。
私の真下を通ったが気付かない。
コトラは草の広場に入って、辺りを見回す。誰かを、多分、私を探しているのだろう。
私の姿が見えなかったコトラは、私の登った木の幹に背をもたれ根元に座り、じっと泉を見ているようだ。
…あえてこのまま音を立てないように、声をかけないでおく。と言うか、なんて声をかけて良いのか分からなかった。
「あ。コトラじゃねぇか」
「本当だ。お前なにやってんの?」
暫くして、コトラよりも大きな音を立てつつ二人の、コトラより少し年上位と思われる男がやってきた。
それぞれの手には得物と思われる弓矢と獲物と思われるウサギがある。
…多分食べるのだろうが、ウサギの肉はどんな味なんだろう。
「別に、何となく」
「はあ?なにやってんのか聞いたんだけど」
「もういい、…この辺良い獲物居ねえし。さっさと行こうぜ」
「そーだな。お前もこんななんも居ない所で油売ってると、晩飯にありつけねぇぞ?…喰うもん無くても俺たちは分けてやらねぇから」
夕飯か…いや、まだお昼も食べてないな。
「ママとパパに泣き付くか?ごはんがないよー…って、ああすまんな。お前捨て子だから親いねぇもんな」
……コトラには親が居ないのか。
「ああ、可哀そう。可哀そう」
「ご心配なく。もう鹿仕留めてある」
鹿肉か…。
「…かわいくねぇ奴」
「けっ」
二人は言うだけ言って去って行った。
その光景を見ていた私のお腹が鳴った。これまた盛大に。
ずっとお腹減ったと考えていたからか。
「!?イ、イルティネ!??」
自分のものではない音に驚き、コトラが音源の私に顔を向ける。
「……お昼、食べる?」
日も高い事だし、時間的にも丁度いい。気恥ずかしいが、お弁当を持ち上げコトラに示した。
私は木から下りて、お弁当を広げた。
中身は、薄く切ったパンに野菜やハムを挟むだけのお手軽料理だった。
魔界で作られたものだが…この量なら人間の身体に問題は無いだろう。
コトラはありがとう、と言って、でもお互いに何となく気まずくて無言で食べた。
そのうちその無言の重さに耐えきれなくて、私は口を開いた。
「あ、あの…」
「?」
コトラが私の目を見る。何となく視線を逸らせてしまう。
「その、…昨日は、ごめん」
「え?」
「…いきなり…怒鳴っちゃって」
「いいよ。こっちこそ、いきなり知った様な顔しちゃったし……人にはそれぞれ色々あるしね」
「色々、ね…そうね、あなたも色々ありそうだもんね」
さっきの事を思い出す。
「うん、沢山色々あるもんね!」
「そんな自信満々に言わなくても」
「こう、『俺凄い物持ってます』な感じ」
コトラが怪しい顔と手つきをする。
「ふふふふふっ」
可笑しくて笑ってしまった。
「はははっ」
つられてコトラも笑いだした。
なんだか、いつもと違う笑いだった。
「そうだ」
私は一つ思い出した。
「どうしたの?」
「……友達って、どういう存在なの?」
「本当どうしたの、急に」
「友達になってあげるなんて偉そうな事を言ったけど…友達がどういうものなのか、分からないんだ。それで、昨日…」
コトラは腕を組んで考え始めた。なんだか難しい問題だ。
「…うーん、俺も詳しくは分からないけど、一緒にいて楽しければ良いんじゃない?」
「…そんなに簡単なの?」
私は少し驚きつつコトラを見やる。
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