「うめぇ!」
多くの者達でにぎわう大きな一室の中、ふいにそんな叫び声が響いた。
音源は、真昼の太陽の光が差し込む窓際に置かれたテーブルで、出来たての料理を前にスプーンを持つ少女だった。
その少女と同じテーブルに着き食事をとっていた別の少女が、おもむろに彼女の昼食をスプーンで持って一掬いし口に運ぶ。
「ほんとだ。おいしいね!」
料理を飲み込んだ少女は嬉しそうに感想に賛同した。
「そうだろうまいだろ!おまえも食ってみ!」
自らの選んだものを自慢するかのように少女が声をかけたのは、先程から興味津津に件の料理を見つめていた、同じくテーブルを共にしている3人目の少女だった。
「いいのか?…では遠慮なく」
スプーンに乗った料理をまじまじと見つつ、ゆっくりと食べた。
「どうよ?」
「どう?おいしい?」
「……これは、美味いな…もっとくれ」
二人に感想を求められた少女はそう答え、言うが早いか皿の上に残った大半を頬張った。
「あ!おま、そんなに持ってくなよ!」
「あ、じゃあわたしも」
僅かに残っていた分も取られ、皿は綺麗に片づけられてしまった。
「ああ!もうない!くうっ、仕方ない。お前らのおれによこせ!」
「だめだ」
「ごめんね」
「えっ、ひど!?」
騒がしく昼食を取る三人の尻尾は楽しそうに揺れている。
彼女達は人間では無い。三人とも魔物である。
三人がそれぞれ爬虫類を思わせる様な四肢と尾を持っていた
「いいからよこせってーの!」
一人は褐色の肌に枯茶の鱗で尾には紅の炎を纏い、
「育ち盛りだから、ごめんね?」
一人はしなやかな手足に翡翠色が映え、
「午後に備えなければならないからな、だめだ」
一人は煤色のそれらに加え、大きな被膜の翼と頭の後方へと伸びる韓紅の角が、彼女の上位性を表していた。
サラマンダーのセオ
リザードマンのカリコット
ドラゴンのメウリル
それが、とある魔王軍の訓練施設で有名な三人組だった。
――ギィン
「そこまで!」
「あたたた」
「まだまだだな」
広大な野外訓練場にて、カリコットは剣を弾き飛ばされ、尻もちをついていた。
そのカリコットの前に立つメウリルは剣を収め、額に浮き出た汗をぬぐう。
「おっしーな!カリコット!そこは防がずに思い切って突っ込むべきだったな!」
昼食の後、広大な野外訓練場にて三人は簡易な試合をしていた。
試合をしていたのはメウリルとカリコットで、セオは審判をしていた。
「メウリルの方は自分が押してると大振りの攻撃が増えるからな!」
三人の内、二人が試合をし、残りの一人が審判を務めつつ、試合中に気付いた事を伝える。
早朝練習の始まる前と、昼休みの空いた時間、そして午後の練習の終わった後。ほぼ毎日欠かさずに行う彼女達の習慣である。
「細かい動きはどうも苦手でな。それにカリコットはすばしっこいから、威力の高い攻撃で懐に入れさせない様にしているのだが」
メウリルの使う剣は大きな幅広の分厚い大剣で、並大抵の魔物、まして人間にはそうそう扱えない代物である。
メウリルがそれをどうと言う事ではないと言った様子で振り回す事が出来るのは、ドラゴンの強大な力ゆえである。
「それでもカリコットが踏み込もうと思えば多分はいっちまうぜ?」
「怖いんだけどねー」
二人に比べて身体の小さなカリコットは、持ち前の素早い動きを駆使して細身の剣を振るのである。
はたから見る限りはどうにか攻撃をかいくぐって懐に潜り込む事も可能ではあるが、彼女のここ一番での気の弱さがそれを邪魔している。
「怖がっていて負けたでは話にならないぞ」
「えへへ…」
「お。まだまだ時間あんな。どうするか」
セオは、どうするか、と言いつつも身体をうずうずさせている。
「じゃあ二人でやりなよ。久々に魔力使って」
を見てカリコットが提案した。
『魔力使って』とは、文字通り魔力を使用しての戦いのことである。
「いいのか?いいのか?メウリルは?」
「大丈夫だ」
メウリルからの了承が得られると、カリコットは二人から距離を取った。
「うっしゃ!久々にやーるぞー!」
セオは肩をまわし、軽く腕を振った後、腰にさした一対の曲剣を抜き去る。
「かかってこい」
メウリルも大剣を一度振り、セオに構える。
「じゃあいくよー……はじめ!!」
カリコットが遠くから発した合図に反応し、セオが吠える
「うおりゃあああああぁぁぁぁあああああ!!」
そそれまでセオの尾を飾るだけだった炎が膨れ上がって燃え盛る。炎はそのまま両手の剣を包み込み、更にはセオの周囲の地面さえ燃やしていった。
「い、く、ぜええええぇぇぇぇぇえええ!!」
セオがメウリルに向かって踊る様に剣を振るう。
本来ならば、剣を投げるなどしなければ斬撃など到底届かない距離だが、メウリルはその場から下がる回避行動を取る。
二振りの曲剣の斬撃
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