皆の役に立ってこその勇者

「ねえ」
「どうかしましたか?」
「私って、ここに居るだけで良いの?」
「お嫌ですか?」
今、街の騎士団は魔物と戦っている。
なのに勇者が戦線の遥か後方のテントの下で椅子に座っているってどうなのよ。
しかも入り口までシュハさんに守って貰ってる始末…。
「皆戦っているわけだし…」
一応目の前には戦略図とかもあるし、説明もされた。
戦いの舞台は丘と丘に挟まれた、殆ど何も無い平原。そこからちょっとした林を挟んだ所に私達の本陣があり、私もそこに居る。
魔物側は深い森があって、本陣もそこにあるんだとか。
森は魔物が潜むには格好の場所だし、こっち側の林なんて申し訳程度でしかないから、皆平原で正面からぶつかる位しか出来ない。
「ですが、今の勇者様では戦えませんよ?」
うっ…痛い所にクリティカル…。
「そ、そうだけどさぁ…。何かしたいよ。なんの為にここに居るのか分からなくなっちゃう」
勇者なのに、戦っている皆に申し訳ないよ。
「戦場で戦うことだけが彼らの為とは限りませんよ。勇者様が居ると言うだけでも彼らの心の拠り所となるのです。それこそ、信仰の対象と成りえるほどに」
「だとしてもさぁ。私は聖女じゃないよ。勇者だよ?置物じゃないんだから私だけ安全な所にただ座ってるなんて嫌だよ」
「ですが…」
「お願いだってぇ」
エヴィさんは難しい顔をして考え込んでしまった。
暫く考えていて、とうとう溜め息をついて私に顔を向けた。
「わかりました」
「ほんと!?」
さすがエヴィさん、わかってくれたよ。
「では、私が勇者様の身体を動かします」
「動かす?」
身体をエヴィさんが操るってことかな。
「私が勇者様へ魔力を飛ばしますので、勇者様はそれに身を任せてください。私は戦闘向きではありませんが、一通りの武術や戦術などはわかっています。主神の加護も合わせれば十分に戦えるはずです。これなら彼らの役にも立つでしょう。勇者様の身が危ないと判断した場合は直ぐに離脱しますが…これで良いですか?」
全然良いよ!
「大丈夫!それで行こう!」
これで皆の役に立てるよ!


……

……


『どうですか?違和感はないですか?』
「大丈夫だよ!慣れた!」
今、私は凄い勢いで走ったり跳んだりして戦場へと向かっていた。
身体が軽い軽い。ひゅんひゅんとんでっちゃうよ!
まぁ、実際身体はエヴィさんが動かしているから軽い以前の問題なんだけど。
そうこうしているうちに木に覆われていた視界が開け、皆が戦っている戦場へと跳び出した。
辺りには、甘ったるい臭いとかが立ちこめていて、それに加えて金属同士がぶつかる音や、怒号とかが入り乱れていた。
血を流した魔物と思われるの(だってみたことないんだもん)も倒れていた。
「…すご」
『こちらに戻ってきますか?』
エヴィさんが言うけど、戻る訳にはいかない。
「皆を助けないと!エヴィさん、お願い!!」
『わかりました。ならばその代わり、目を逸らさないでください』
「うん!」
そう言うと、剣を抜いて、丁度近くでトカゲのしっぽみたいなのが付いた魔物にやられそうになった騎士の元へとひとっ飛びした。
まさに騎士の人に振り下ろされようとしていた剣を受け止めると、そのまま魔物の剣を上に弾き、右肩から左腰に掛けて剣を振り下ろし、聖なる剣の力か鎧ごと軽々切り裂いた。
生き物を切った感触は、それほど嫌なものでは無かった。吹き出して私にかかった返り血も気にならない。
倒れた魔物は、尻尾とか手足とか以外は人間と変わらなかった。
姿を人に似せて油断させておそうのかな。
「大丈夫?」
「vorgh!dnvmoonb、pwdfz」
『大丈夫そうです。次に行きますよ』
「え?あ、うん!…じゃあ、気を付けてね!!」
体勢を立て直した騎士を置いて、戦いの中心地の方へと向かう。
とその時、目の前に緑色した肌と角を持つ魔物が立ち塞がり、思いっきり拳で殴りかかって来た。
「あっぶな!」
後ろにさがって避けたら追い打ちとして、左のハイキックがとんできた。
けど、軽くしゃがんでそれを避け、魔物のわき腹に深く刃を立ててそのまま横を走り去る。
剣を一度血払いすると、今度は左から槍を持ったさっきと同じ様なトカゲの魔物、右から剣を持った燃えてるトカゲの魔物が来て、両方から同時に攻撃がきた。
体勢を後ろに崩しながら右からの剣を剣で受け止め、左から突きだされた槍を握ると、その勢いを助けるように槍を引っ張り前のめりに転ばせた。
左の魔物を転ばせた瞬間に手に入れた槍で再び攻撃しようとしている右の魔物を突き、自分が後ろに倒れそうになるのを一回転して立て直しつつ倒れた魔物に剣を突き立てた。
あっという間の出来事だった。
「エヴィさんすっごい強いじゃん!びっくりだよ!」
『いえ、これは勇者様の身体だから出来るのです』
「私の身体
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