ここはどこだ…。
やけに豪勢な部屋、座り心地の良い椅子。
品のあるテーブルには淹れたての紅茶が甘い湯気を上らせている。
「また会ったね、ロウガ。」
向かい側に座るいつかの高貴なサキュバス。
「私と会う間隔が短くなってきたね。身体は大丈夫なのかい?」
「ああ、心配ない…。」
お前は誰なんだ、と訊ねても彼女は微笑んで紅茶に口を付けるだけ。
「…知るだけ野暮な話だよ。それでもお互い知らぬ仲でも…、いや君の記憶を封じるのは私か。だから君は私のことなど知らないのだろうが…。」
「いや、お前と会えば何故かお前のことを思い出す。何度も…、何年も俺はこうして出会ったような気がする。」
「…やはりこの世界の魔法の効果が君には薄いようだね。それともその身に宿した黒い力のせいなのかな?」
「さぁな。」
紅茶が冷めるよ、と促されて紅茶に口を付ける。
「ああ、そうか。君はジパング…、いやあちら側のジパングと言った方が良いね。ジパングのお茶の方が口に合ったかな?失敬、そのことを失念していたよ。」
「構わない。こっちに来て、もう長いからな…。」
「いつか…、君の奥方ともこうしてお茶会でもしてみたいな。」
少し寂しそうな顔で彼女は呟く。
「呼べば良いだろう。」
「私も気楽に人を呼べない立場なんだよ。」
「…俺はこうして呼ばれているじゃないか?」
「君はここにいて、ここにはいない。私のまどろみと君のまどろみの交差する僅かな時間に生まれた世界の歪みが、君をここに存在させているんだ。だが、今日はもう時間切れだ…。私の目が覚めて、君の目も覚める。また君は私を忘れて、君の現実を生きる…。」
視界が段々とぼやけていく。
ひどく頭が重くて、瞼を開けていられない。
「さようなら…、出来ることなら二度と君に会えないことを祈るよ。」
誰かに似ている…。
そう思いながら、俺は心地良い眠りの中に落ちていった。
――――――――――――――――
気が付けば人々が歩いている。
どこへ向かうのか…。
誰も彼もが無言で、列を成してどこか一点を目指して歩いていく。
どこへ行こうとしているのか、その場所は光に包まれて見ることが出来ない。
確かめてみたくて、彼らに混ざってその場所を目指す。
あそこは……、暖かそうだ………。
その時、誰かが手を握った。
傷だらけの、右目のない蜥蜴の少女が俺を見上げて手を握っている。
『ソッチジャナイ。』
そう言う。
ああ、そうか…。
俺はまだ行ってはいけないのだな…。
少女に問うと、黙って頷いて彼らと逆方向へと俺を誘う。
誰のいない回転木馬のイメージの中、
グルグルと同じ場所を彷徨って、
暗闇を歩き続ける色のない人々の行進。
聖者も愚者も貧者も王者も
まったく同じ布を頭から被り、消えては生まれていく。
視界がずれ始め、
硝子の空が割れていく。
ただ、
静けさが怖い…。
「…………ガ、……ウガ!ロウガッ!!」
目を覚ますと、アスティアが俺に縋って泣いていた。
見覚えのない天井、我が家の布団ではなく、薬品臭いベッドの上だった。
「ロウガさん、何があったかわかりますか?」
アヌビスが顔を覗かせた。
さっきまで泣いていたのか、目が赤い。
「……さっきまでアヌビスの報告書を読んでいたはずだが?」
「何を言っているんだ!お前は、突然苦しみだして、そのまま意識を失って……、今日まで二日間目を覚まさなかったんだぞ!!」
「…そうだったのか。」
アスティアの頭を撫でる。
アヌビスの説明によれば、俺が倒れたのは身体の異常ではなく、俺に蓄積した魔力の暴走らしい。突然苦しみ、血を吐いて、そのまま昏睡状態に陥った俺は学園の医務室にそのまま二日間をすごしたらしい。
町の病院は、あの日のクーデターで半壊状態でとても医療を行える現場ではない。
病院だけではない。
クーデターによって町の重要拠点はほぼ破壊されたため、俺はこの学園の敷地と校舎を貸し出して、学園は病院などの簡易施設となっている。
そのせいか俺の仕事も、アスティアやアヌビスの仕事も増え、学園は実質休業状態。
学園の教師陣は町の復興のためにその力を貸している。
そして彼女たちの上司、学園長だった俺は、いつの間にか彼女たちや町の仲間たち、そして生き残った人々によって町の代表、町長の座に納められてしまった。
多数の犠牲を出させてしまったため、俺は辞退したのだがバフォメットやアキたちアマゾネス、そしてミノタウロス共同組合やリザードマン自警団の面々に無理矢理承諾させられてしまった。いくら腕っ節は彼女たちに負けない自信があるとは言え、どうして女の迫力とはどの国でも、どの世界でも変わらないのだろうか…。
俺が倒れたのも疲労から体力が落ち、魔力を抑える力が衰えたことが原因だと考えられるらしい。
やはり仮定の話。
アヌビスも唇を噛んで、泣くの
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録