クーデターから3日が経過した。
その失敗と名もなき町が奪還された報告は早馬でヴァルハリア本国にも届けられた。
そして…、ヴァル=フレイヤ討ち死にの訃報も程なくして大司教以下諸侯の耳に入った。
「おお…、まさか歴戦の勇士が…。」
大司教ユリアスの嘆きに諸侯も皆涙を流す。
「まさか…、彼女程の勇士があの悪魔を止められぬとは…。」
「ええい…、フウム王国は何をしておるのだ!」
「中立地帯を目下侵攻中ということでしたが、思いのほかやつらの反攻が激しいらしく、いまだ神敵の町どころか自分たちの領土の傍から出立出来ぬようですな。」
事実彼ら自身も砂漠のオアシスが滅んでいたことにより軍を撤退させたが、結果的にそれが部下を生きて帰そうと責任感の強いヴァル=フレイヤを死なせてしまった遠因だということに彼らは気付いていない。
「…彼女の死は大々的に国民へ報じよ。可憐なる神の使徒が命をかけて信仰に殉じたのだ。我々はフウム王国の力を借りてでも、彼女の復讐を遂げねば…、神罰は我らが受けることとなるであろう。」
ユリアスは改めて宣言をする。
その言葉に諸侯は再びロウガ討伐の決意を固める。
「しかし…、領地奪還のために割いた人員や領内を脅かしたドラゴンのせいで我が騎士団はその数を大幅に減らし、今や20名を切りました。もはや戦になりませぬ…。」
「だが、その人数でもヴァル=フレイヤは立派に戦いましたぞ!それならば足りない兵力は信仰心で補えば良い!」
「しかし、それで神の兵を全滅させてしまえば…、魔物たちの思う壺ですぞ?」
彼らは行き詰っていた。
すでに教会騎士団は19名となっており、この数日後にダオラによって負傷した騎士が4人亡くなっている。
諸侯も大司教も皆絶望に襲われていた。
これが神の与え給う試練なのか、と思案している時、一人の衛兵がドアを開けて入ってきた。
「会議中に失礼します!」
「…構わぬ、何があった。」
衛兵は身体を震わせながら答えた。
「き、救世主です!我々に救世主が…!!!」
「要領を得ぬ。どうしたのだ?」
「救世主…、勇者ハインケル=ゼファーが大司教猊下にお会いしたいと!」
ユリアスは目を丸くして、大司教の玉座から飛び上がった。
「お、お通しせよ。最高の礼を以ってお迎えするのだ!!!」
―――――――――――
通されたのは豪華絢爛な大聖堂。
仰々しいファンファーレに耳をやられるかと思った。
「よくぞ、来てくれた勇者ハインケル。余が大司教ユリアスである。」
頭を下げるのは嫌な相手だったが、これも策のためと作法に則って俺も礼をした。
「ハインケル=ゼファーにございます。」
色々言ってやりたいが、今は口数を少なくしておこう。
「勇者ハインケル。さっそくだが我らヴァルハリアは…、いや世界の真理が危機に晒されておる。勇者と名高いそなたなら理解してくれよう。我らは領地奪還運動をやめる訳にはいかぬ…。そなたが我らの味方となってくれたのは、実に心強い。」
「……しかし、お味方が少ないのではないですか?」
「そなたの耳にも入っておったか…。そうなのだ、フウム王国の兵力を当てにしておったのだが…、中立地帯を進む彼らも兵力を大きく損ない、我ら教会騎士団も最早崩壊寸前…。」
そりゃあ、そうだろうよ。
あの町で大々的に投入した挙句全滅。
そしてドラゴン討伐でまた全滅。
「その兵力、何とかする手がない訳でもありませんよ。」
「ま、まことか!?」
「失礼ながら、大司教猊下も教会騎士団も諸侯の方々も戦というものをご存じない。戦というのはただ勇敢な人間を戦線に投入するだけでは戦になりません。戦の要は数です。言ってみれば兵卒こそが戦を左右するのです。」
「な、なるほど…。」
…こんなのは初歩の初歩だ、馬鹿野郎。
「しかし、教会騎士団には兵卒と呼べる兵がおりません。これは致命的です。今すぐ中立地帯にて戦闘をしているフウム王国を、大司教の勅命を以ってヴァルハリアへ呼び寄せなさい。」
「だ、大司教猊下に何と無礼な口を…!」
「…勝ちたくはないのですか?」
一睨みで口を挟んだ諸侯の一人は口を閉ざす。
だから…、あんたらは負けるんだよ。
「フウム王国もわずか全兵力は3000…、いや、すでに日数が経ってしまっていますから2000以下になっているでしょうな。私の知った情報ではフウム王国の先発隊500名は…、魔物たちに急襲されて壊滅した、となっていますね。」
もちろん俺の手引きで壊滅した訳だけどな。
「おお、その通りなのだ…。彼らの500の兵を当てにあの神敵を討ち取ろうとしたのだが…、ヴァル=フレイヤめが戦線を維持出来なかったのだ…。」
彼女のせいかよ…。
いよいよ以って腹が立つ。
「…そうなってしまっては、一つだけです。領民を兵卒とするのです。」
「りょ…、領民を!?」
「そうです
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