「そうか…、ついに宣戦布告をしたか…。」
「はい。すでに先発隊は教会領に入り、教会騎士団と合流した模様です。」
フウム王国の宣戦布告が出されて二週間。
セラエノ学園内でもすでに動揺が見え始めている。
彼らの第16次レコンキスタと言われる大々的な領地奪還運動における最初の標的とされたのは、私たちの学園長、ロウガさんだったのだから…。
「…フウム王国にいた使者は、脱出したんだな?」
「…はい、彼らが宣戦布告を出す前に。」
私は………、嘘を吐く。
事実、彼女たちはその最後の最後の瞬間まで私とリンクを続け、フウム王国の内情を、そして探り得なかった彼らの秘密兵器の情報を探ってくれた。
結局、彼らが何を造っていたのかは判明しなかった。
それでも彼女たちは命を賭して私に情報を送り続けてくれた。
そして領内で苦しむ魔物や親魔物派の人物に手を差し伸べ、他の親魔物国家への脱出を計り、彼らの命を救ってくれた。
私は………、彼女たちを誇りに思う。
「あの戦争屋…、死にたがりどもが…。国を動かすことが、いかに領民に苦を強いるか…、考えもしないのか…!」
「私が見るに、フィリップ王の側近も…、皆庶民から上がった人々ではありません。それぞれが大貴族出身者…、庶民が苦しむなど想像もしないのでしょう。それに領民は皆協力的です。人道的であることよりも優先される、宗教的に正しいことだと信じて疑わない…。」
「…アヌビス、答えてくれ。」
「…私で良ければ。」
「俺は反魔物でも親魔物でもない…。ただ人間に賭けたかったんだ…。もうアスティアのような不幸な子を…、あの避難民たちのようなやつらを生み出したくなかった…。俺は魑魅魍魎の珍しくない世界から来た…。だからこそそこにあるがままの彼らと共に生きてきた。そこに憎しみや対立などありはしない…。それをこの世界に持ってくれば…、何かが変わるかもしれない…。そう思っていたんだ。だが、世界は変わらない…。それどころか加速的にやつらは自分たちの正義を疑わず、アスティアのような子を増産しやがる…!教えてくれ、アヌビス…。俺は………、間違っていたのか………!」
初めて聞く彼の弱音。
だが、それは彼自身が標的にされた動揺からではなく、彼のせいで標的にされる周囲の人々への自責の念から出た言葉だと私は知っている。
「あなたは…、間違っていません…。しかしこの世界において、あなたの行為、あなたの存在を正義か悪かという二元論的な概念で申し上げれば、あなたは悪の側に入るでしょう。それでもあなたは間違っていません。そんなあなたに付いて来た私も…、アスティアさんも…、この学園の先生たちもきっとこの世界の目から見れば、秩序を乱す悪と言えるでしょう。しかし、私も彼女たちも後悔はしません。あなたという存在に共感し、あなたの主義に感銘を受け、共に笑い、共に涙し、共に悩み、共に歩んできた日々は、私たちの誇りです。あなたという人間と共に歩めた時間は…、彼らの言う神の教えよりも価値ある時間でした。これからも…、ずっと、私たちの命がある限り。ですから、ご自分を責めないでください。例え、彼らに殺されてしまうようでも…、私たちは手ぶらで旅立つのではありませんから…。」
「…すまない。アヌビス、若いお前に……、みっともないとこを見せた。やれやれ…、歳は取りたくないな…。」
「いえ、本心ですから…。」
「やつらの軍がここに辿り着くまでにどれほどの時間がある?」
「…彼らの作戦自体に穴がありますから、中立地帯を襲いながら進軍するとなれば、おそらくは兵糧を削り、兵を削り、時間を削り、すべて順調に落として2週間はかかります。しかし、中立地帯の抵抗も考えますと、おそらくは序戦以降は勝ち進めないでしょう。序戦の急襲以降は中立地帯の勢力も団結し、彼らと戦うでしょう…。そのうち彼らは迂回路から教会領にて合流すると見られますので、軍の再編成する時間を考えれば2ヶ月は稼げます。」
「その間に…、何か対策を打たねば…ん?何だか騒がしいな?」
学園長室の外でザワザワと声が聞こえる。
耳を澄ませば、よく通る声…、セイレーンのルナ先生が誰かと押し問答をしている。
そして勢い良く学園長室の扉が乱暴に開かれた。
「貴様がセラエノ学園学園長、ロウガだな。」
そこにいたのは教会の紋章の付いた服に身を包んだ高圧的な男だった。
「おやおや、町に潜入していた教会の犬じゃないか。しかも何とも可愛げのない。見ろ、うちのわんこの方が実に可愛いぞ。」
そう馬鹿にするようにロウガさんは笑って、私の腕を引き寄せ、抱きしめ頭を撫でる。
「ちょ、ちょっと、ロウガさん!?」
「ふん、魔物に心寄せる堕落した者め。」
「おう、その堕落したジジイが聞いてやろう。何の用だ、駄犬?」
男は鼻で嘲笑って、懐から書簡を取り出した。
「逮捕状だ、ロ
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