第二十一話・譲れないものがそこにある

「おい、サクラ。自分で何を言っているのかわかっているのか?」
「うん、僕は…、本気だよ。」
「…良いか。今ならまだ間に合う。『ごめん、冗談。』っていつものように言えば…、俺も笑って、いつものように帰りに駄菓子屋行って、遊んで帰ることが出来るんだがな…。」
俺は…、努めて冷静な口調でサクラを諭す。
「冗談なんかじゃ、ない。僕は…、サイガと戦いたい!」
「サクラ、易々と戦いたいなんか口にするな!」
「それでも…、僕は戦いたい!!」
強い目だ。
一ヶ月前までなかった強い目がそこにある。
「引くつもりは…、ないな?」
「僕は、サイガとマイアさんとコルトに…、ふざけて物を言う舌は持ってない!」
ホームルームが終わって帰宅しようと席を立った俺に、サクラが果し状を叩き付けた。
サクラらしい細く繊細な字。
だが、そこには決意がある。
真っ直ぐに俺を見る勇気ある強い目が、諦めないと言っている。
「……わかった。受けよう…。受ける限りは…!」
「もちろんだよ。僕はどんな結果になっても構わない。」
「今夜、九時に校庭か…。他に場所はないもんな。」
「うん。サイガ、槍は…、本物で頼む。」
「…そこまでさせる程か。お前の決意は…。」
「…命を賭ける価値がある。僕にとってサイガと戦うことはそれだけの意味があるんだ。」
あの弱々しかった少年じゃない。
目の前にいるのは、立派な戦士になって帰ってきた一人の男だ。
「わかった…、もう何も言わない。じゃあな、俺は一度帰る。」
「ああ、また…、後で。」
胸が高鳴った。
不思議な程、喜んでいる自分に嫌悪した。


―――――――――――


子供の頃の話だ。
僕がマイアさんに希望を与えられた頃と同じ頃、僕はサイガにいじめから助けてもらった。
「へへ、女の子は助けてやれって、死んだ母ちゃんが言ってたんだ。」
僕を女の子と勘違いして、サイガは助けてくれた。
僕はいつも弱くて、卑屈で、陰鬱で…。
だからよくいじめられていた。
それでもいつだって
「オラァァー、お前ら、サクラに手を出すなぁぁぁ!!!」
サイガがいつだって一番に駆け付けてくれた。
「良いか、俺がサクラを守ってやる。コルトも、マイアもみーんな俺が守ってやるから、安心しろ!」
サイガはいつも笑ってくれた。
いつだって僕を見捨てなかった。
だから、サイガはいつだって僕のヒーローだった。
サイガみたいになりたい。
それがいつか道を誤った。
それでもサイガは許してくれた。
そんなサイガが僕に見せた剥き出しの敵意。
僕は初めて僕であることを誇らしく思えた。
僕はやっと…、サイガに認められたんだと…。


古い話だ。
母親が死んで…、悲しみをやっと乗り越えた頃に俺はサクラに出会った。
いじめられている女の子を助けたと思ったら、そいつは男だった。
笑っちまう話だよ。
何だか放っておけなくて、あいつがいじめられているのを見るとすぐに蹴散らした。
あいつが泣きながら帰り道を歩いているのを見ると、すぐに相手を見つけ殴った。
いつ頃だったか、コルトやマイアにも出会った。
何故かウマが合って、今でも友人…、コルトとは俺と愛し合うようになった。
俺は守るべきものが増えた。
死んだ母親との約束。
「誰かを守っていける、そんな男になりなさい。」
今でも実行中。
律儀な話だよな、それともマザコンか?
俺が…、みんなを守っていく。
それが俺の、自分だけの誓い。
なのにサクラは…、
今まで守られるだけだったあいつが、
俺の手の届かない場所に行こうとしている。
強くならなくて良いんだ。
お前もコルトもマイアも俺が守ってやるから…!
そうでなければ俺は何のために強くなったのか…。
…………。
そろそろ時間だ。
俺は愛用の槍を、ハルバードを手に取る。
俺は…、こいつをサクラの血で汚すのか…。
俺に…、それが出来るのだろうか……。


―――――――――――――



「え〜、おせんにキャラメル〜アンパンにビールはいかがっすか〜♪」
「あ、ルナ先生、私アンパンとお茶くださ〜い!」
「はい、まいど〜♪」
…………。
「良い席あるよー、最前列で見れる席あるよー!」
「ちょっと、アキ先生。それ値段吹っ掛けすぎ〜!」
…………おい、サクラ。
「ミルク〜、ホルスタウロスの冷た〜いミルクはいかが〜♪」
「ちょっと、アスクー!アタシの商売邪魔しないでー!!」
「うふふ、あなたの胸じゃ、ちょっと考え付かなかったでしょ〜?」
「ムキィー!!!」
…………何の騒ぎだ、これ。
「ロ、ロウガ…、すごい人出だね…!」
「うむ、宣伝した甲斐があったな。」
「…父上、人の決闘を茶化すのは良くないぞ。」
「はっはっは、マイア。焼きイカ頬張って言う台詞じゃないぞ。」
もう限界だ、切れるね!
「待てよ、お前ら!そもそも、何でこんなに人が集ま
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33