久し振りに見たあいつは、何だか変わった。
今までちょっと女の子みたい…、いや、恋人のコルトよりも遥かに女らしかったんだが、顔付きが変わったというか…、雰囲気がガラリと変わった。
いつもオドオドしてたのに、以前よりも堂々としている。
やはり学園長のシゴキが功を奏したのだろうか。
「おはよ、サイガ。」
「あ、ああ、おはよう…。サクラ…か?」
「うぅ…、やっぱり一ヶ月も合わないと、忘れられちゃうくらい僕って存在薄いの?」
「ああ、違う違う!そうじゃなくてな、何だか雰囲気が変わったな?」
「うん…、一ヶ月も山に篭ればね。毎日毎日学園長にボコボコにされたり、野性の獣に追われたりすれば…、雰囲気も変わるかも…。」
「何か悲惨だな?」
「魔物じゃなくて、野生動物に僕…、お尻を奪われそうになった…。」
涙目で思い出すサクラ。
すまん、それは否定出来ない。
実はクラスの中にも何人かお前に対して同性愛に目覚めたヤツがいるし…。
「んで、やっと山を下りれたということは…、学園長に認められたのか?」
「…違うよ。アヌビス教頭先生に僕の出席数が危ないって言われてね。学園長がアスティア先生とアヌビス先生に怒られて、僕の下山を許可したんだよ。ついでに学園長、僕と山に篭っている間、仕事をボイコットしてたみたいだし。」
「なるほどね。ということはしばらく学園長は仕事部屋から一歩も出られないってことか。」
「そうみたい。」
えへへっ、と笑うサクラ。
……あ、危なかった。
コルトがいなかったら、この笑顔に俺が堕ちるとこだったぜ。
しかし、こいつ…、狙ってないか?
少しダボ付いたTシャツに、これもちょっと大きいサイズのハーフパンツって。
サクラって顔が顔だけにパッと見、ちょっとボーイッシュな女の子にしか見えないもんなぁ。
アヌビス教頭が見たら間違いなく鼻血……うおわ!?
廊下からアヌビス教頭が良い笑顔でサクラを視姦してる!?
お付きのマミーが全力でサクラのスケッチを取ってる!!
お付きって大変なんだなぁ。
後で飴でもあげよう。
「あ、おはようございます。アヌビス先生。」
「はい、おはようございます。今日も良い天気ですね。」
アヌビス教頭の危ないオーラに気付かないサクラ。
アヌビス教頭…、涎、涎…。
「…ところで、サクラ。お前の留守中に面白い噂を仕入れたんだが?」
「ひゃん!?にゃ、にゃんのこと!?」
…やっぱりこいつが変わったなんて勘違いだな。
とりあえず今日一日はこいつのことをミスターGとでも呼んでからかおう。
―――――――――――
午後、アマゾネスのアキ先生の戦闘実習の時間。
先生は授業開始の合図をしただけでまたどこかに消えてしまった。
ああ、弁当(ダンナ)が届いたんだな。
…俺も人のことは言えない。
この授業が終わったらコルトに食べられるんだから…。
「おりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
お、この雄叫びは俺の恋人の声だな。
彼女はうっかり殺してしまわないように大斧ではなくヒノキの棍棒を使っている。
うん、やさしい恋人で本当に良かった。
よし、俺も彼氏として頑張りますかね。
長柄の棒の先端に綿を丸く詰めた模擬の槍を構える。
相手は同じ人間の同級生だ。
…ものすごーく頑丈で力馬鹿でスピードよりもパワーという絵に描いたような筋肉馬鹿。
もちろん、強いことは強いがクラスでも人気はない。
今日の武器は、馬鹿でかいメイスか…。
「ぎょうごぞ、おで、おまえ、だおず!!!」
「…頼むからさ、通じる言葉で喋ってくれないかな?」
それより、君、本当に同級生?
こんな濃いヤツだったら忘れられそうにないんだけど、記憶にない。
「ぶほぉぉぉぉぉ!!!!」
「シッ!」
スピードはないが当たれば骨折…、いや死ぬな。
地面に振り下ろされたメイスが大地を割る。
純粋な質量兵器はこれだから性質が悪い。
目を瞑っても避けられる攻撃を俺は難なく避ける。
それよりこいつは授業だってわかっているのか?
「までぇぇぇぇ!!!」
「お前に付きあう程、面倒なのは好きじゃないんだ。」
メイスを振り上げた右腕の付け根を槍で思いっ切り突く。
槍先から関節が外れる感触が伝わる。
「へげぇ!!」
力のなくなった右腕がメイスを放す。
「あ。」
「あ?」
めこっ
メイスが筋肉馬鹿の頭の上に直撃する。
筋肉馬鹿はそのまま気絶して、地響きを残して前のめりに倒れる。
これは…、自業自得なのか?
「さすが、あたしの未来のダンナじゃん。余裕だったな。」
「コルト、お前は終わったのか?」
「もち、楽勝さね。それよりさ、面白いもの見付けたんだ。」
俺の手を引いてコルトが戦闘実戦中の集団に入っていく。
最近、みんなレベルアップしたなぁ。
足捌き、体捌き、どれを取っても目を見張るものがある。
あ、マイアだ。
「やぁぁぁ!!!」
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