第十九話・惨劇まで後少し、仲直りまで後ちょっと

「それで、マイアはあの子…、サクラ君が好きなのかな?」
「え、は、母上!?いきなり何を!?」
「いや何、急にあの子とロウガに差し入れを持って行こう、なんて言うもんだからね。」
「あ、あの、その…!」
「…ふふ、良いんじゃないかな?好きなら、あの子が弱くても。」
「え…。」
母上は人参を切りながら、微笑んだ。
「何だ、マイアは私がそんなに無理解な親だと思っていたのかい?」
「いや、そうじゃないけど…。」
「私がマイアくらいの歳だった頃…、お前みたいに素直に行動を取れなかったからね。だから…、自分の娘には自分の心に素直であってほしいと思っているよ。良いじゃないか、掟も習慣も放り出したって。」
少し、意外。
リザードマンとして高い誇りを持っている母は、私にも父のような男を望むかと思っていたが…、その言葉はあまりに意外だった。
「良いの?相手が強くなくっても…?」
「そう聞くということは、サクラ君も脈があるようだね。」
「あ、ちょっと待って!今のノーカン!!」
「ふふふ…。強いというのは何も腕っ節だけじゃないよ。結構勝負の結果に目を奪われがちだけど、心の強さというのはなかなか持っているものじゃないよ。その点、彼には素質がある。」
「心の…、強さ…。」
切った野菜を母は鍋に入れる。
後は蓋をしてじっくり煮込めば『母でも作れる』美味しいスープの出来上がり。
「そう。あの子は…お世辞にも武術は強くないけど、なかなか心は強いよ。あの子は決して諦めない。諦めが悪いんじゃなくて、あの子は純粋にお前の言葉を受け止めて、上を向いて…、お天道様に真っ直ぐ顔を向けて前へ前へ歩いていける。あの子の強さはそんな強さだよ。責任重大だね、マイア。」
「せ、責任って…!私は別にサクラが好きとか…、そんなんじゃ…。そりゃあ、可愛い弟分っていうか…、ちょっとだけ…、気になる…というか。」
「はいはい、ごちそうさま。マイアは幸せな恋をしているようで私は満足だよ。」
「ちょっと〜、母上〜!誤解だってばぁ!!」
「赤くなってモジモジしている時点でバレバレだよ。まぁ、本気で好きなら押し倒してしまうのも手だよ。そもそも私もロウガとは、そうやってゴールイン出来たし…。」
「嘘!?あの超兵器絶倫親父が、押し倒された!?」
「…ひどい言い様だね。ロウガはあれで昔はすごく奥手だったんだよ?恋人として交際していた時もね、なかなか私に手を出さなくてね。私もとうとう業を煮やして…、ちょっと薬で身体の自由を奪った状態で…ね。」
「…色々、若い時はすごかったんだ。」
鍋も煮えた。
そろそろお腹を減らしているであろう二人の男たちに差し入れに行こうかな。


―――――――――――


マイアとアスティアは護身用に大剣を背負い、鍋を持って山に登る。
もっともロウガとサクラの篭っている山はそんなに険しくなく、学園の裏山の中腹であり、普通に歩けばほんの40分程度で辿り着く場所である。サクラがいまだ下山出来ないのは、純粋にロウガに毎日ボコボコにされて、下山する体力がないというだけ。
「よく続くよね。二人とも。」
「ロウガもあれであの子を気に入っているみたいだから…。鍛え甲斐があるらしいよ。」
「…あの卑猥なマラソンソングはどうにかするべきじゃないかな?」
「あれに関しては無理だね。ロウガが気に入ってるし…。」
「父上の趣味って、よくわからないよ。」
二人とも普段から鍛えているだけあって山道をスイスイ登っていく。
そしてそろそろロウガやサクラの姿が見えてくるであろう、という頃。
悲劇の引き金は引かれたである。
「だが…、本当に良いのか?確かに可愛い娘ではあるが…、口は生意気で、割と腕っ節で物事考えるし、胸はないし…。」
ロウガの声がする。
焚き火の前で何の話をしているのだろう、と二人は息を潜める。
「そこが良いんじゃないですか!!生意気といってもその裏にやさしさがありますし、腕っ節で考えるのも誰かを守りたい一心からですし、何より『つるぺた』なのが良いんじゃないですか!!」
『つるぺた』。
その言葉はマイアの心に会心の一撃を放った。
まさに言葉の『ハートブレイクショット』。
「マ、マイア!」
「大丈夫…、母上…。私は…、まだ戦える…!」
「クッ…!」
アスティアは悔し涙を流す。
自分と同じ体型になってしまった娘を思うと心が痛んだ。
そして、日々の鍛錬の合間にマイアが誰にも気付かれないように、女性週刊誌『魔物娘セブン』から仕入れた知識で胸を大きくするツボを、毎日刺激している娘の涙ぐましい姿を知っているだけに痛みは一層募る。
かつてアスティアもしていたからだ。
効果はまったくなかったのであるが…。
「ふむ、そこの趣味はわかるぞ。何、アスティアもお世辞にも大きいとは言えない。確かにあいつの体型も控えめであるが、そこ
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