第十三話・みんなの休日

「…サイガ、いる?」
ノックをして病室のドアを開ける。
部屋の中には付き添いのコルトとベッドに横になっているサイガがいる。
あれから1週間、僕はやっと学園長先生にやられた内臓や背骨、肋骨など怪我も一応癒え、サイガに謝りに来た。
「あ、ごめん…。」
「やっと来たな、サクラ。事情は聞いたよ。」
謝りに来たのに、サイガは笑って出迎えてくれた。
「魔剣の呪いだってな。マイアに聞いたよ。さすがに刺された時は怨んだが、事情を聞いちまったら、さすがの俺も怒れねえな。」
「…ごめん。」
「リンゴ食うか?さっきコルトが剥いてくれたんだ。」
「ほら、遠慮するなよ。アタシだって鬼じゃないさ。」
笑顔でリンゴを差し出してくれるコルト。
二人のやさしさに我慢していたものが込み上げてくる。
「あー、ほら、泣くなよ。」
「…ごめ…!ごめん…、なさい…!」
「泣くなってば。」
ベッドの脇でただ泣き続けた。
二人は困ったような顔に苦笑いをした。
サイガが静かに口を開いた。
「…やっといつものサクラが戻ってきたな。」
「……ごめ…ん!」
「…気にするな…って言う方が無理かな。マイアに聞いたけど、お前だってあの学園長に殴られたんだろ?それなら…、お相子さ。あの殺人パンチを食らって生きているんだ。むしろ誇ってもいいぜ。」
だから、この話はもう終わりだよ、とサイガは言う。
「まー、男同士の諍いだし、ここはスッキリ終わらせよう、な?アタシもギスギスした関係は嫌だしね。」
とりあえず一発殴って仲直りしろ、とコルトは新しいリンゴを器用に剥きながら言った。
…何で大斧で容易く剥けるんだろう。
「僕は構わないよ…。むしろ殴られるのを覚悟で来たんだ。」
「おいおい、俺はそういうの望んでいないぞ。それに見ろ、俺はしばらく絶対安静だぜ?」
「安心しろ、アタシが変わりに殴っておく。」
剥いたリンゴを皿に置くと、コルトは拳を握って指をボキボキと鳴らす。
「「コ、コルト?」」
サイガと僕の声がハモる。
「彼氏が許してもアタシの気がまだ治まらないんだよ。しかもアタシの親友まで手にかけようとしたんじゃ、このままで済ます、なんてのはつまらないよな?でも、サクラは今でもアタシの友達だ。だから出血大サービスで一発で済ましてやるよ。わざわざ殴られるのを覚悟で来てくれたんだ。ここでお前の気概を無視するんじゃ、友達失格だ・よ・な?」
恐怖でサイガも布団の中に顔を隠す。
僕は金縛りにあったように動けない。
「歯ぁ食い縛れぇぇぇー!!」
「ブギュ!?」
顔面に拳がめり込む。
衝撃に首がグキッと悲鳴を上げる。
ぶっ飛ばされて僕は高速で回転しながら、頭から床に衝突。
不規則に転げ周り、ドアをぶち破ってやっと止まった。
ガラスの破片が身体に突き刺さる。
顔面がまっ平になったような気がする。
嗚呼、ここが病院で、本当に良かった!


――――――――――


「と、いう訳でサクラは頸椎粉砕骨折、頭蓋骨陥没、その他諸々で全治1ヶ月だってさ。」
「…相変わらず回復が早い餓鬼だな。」
今日は休日。
私は久し振りに両親とデートだ。
「マイア、お、おかしくないかな…。おめかしなんて…、その…、ロウガと結婚して以来あまりしていないから…。」
母はいつもの鎧ではなく、大人っぽいスーツに薄く化粧をしている。
「おかしくないよ。むしろ綺麗♪っていうか父上、たまにはお洒落して出かけられるとこにデートしてあげなきゃ。」
「…善処する。」
父から魔力汚染の話を聞いた。
しばらくは父も安静しなければいけないらしいので、久し振りに私は休日を鍛錬に充てずに、前々から見たかった演劇を見に行く。
あの後、父は髭を剃った。
何でも『現役復帰』とか言っていたが、あまりピンと来ない。父にとってあの顎鬚は現役引退の意味合いと、私のために好々爺を意識したものだったらしい。
心なしか若返ったような気がする。
…蓄積した魔力のせいもあるのかもしれない。
「ほら、父上も母上も腕組んで♪恥ずかしがってちゃ私が恥ずかしいよ。」
「…うん。」
父の腕に母が寄り添う。
あー、耳まで真っ赤になっちゃって。
「でも…、父上。せっかく母上がお洒落したのに…。」
父はいつもとあまり変わらない服装。いつもと違うのはゲタという変わった履物を履いて、いつもより綺麗なハオリを着ているくらいだ。
「娘よ、このお洒落がわからんか?」
「わからないから言ってるの…。」
「大丈夫だよ、マイア。ロウガも私とお前との外出が楽しみだったんだよ。私たちがわかっていれば、いいじゃないか。」
…この万年新婚夫婦め、と腹の中で罵ったが、口に出すとまた父のアイアンクローが来そうなので言葉を飲み込んだ。私って大人だなー。
「…。」

ガシッ
ギリギリギリギリギリギリ

「みぎゃぁー!!何、何なの、父上!!」
「いや
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