第十二話・アンファンスB青い果実

おかしい…!
僕は強くなったはずなのに…!
何で、こんなロートルに歯が立たない!
「ゴアァァァァァァ!!!!」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
マイアにも通じたんだ!
何で、武器も持たないジジイに、一方的に殴られなきゃいけないんだ!
サイガにも通じたんだ!
何で…、何でお前みたいなロートルが邪魔をするんだよ!
「餓鬼が…。」
「ヒッ!?」
顔面に大きな石みたいな拳が入る。
奇妙な浮遊感。
そして、直後に無防備になった顔面に踵が振ってきて、顔面を潰される。
そのまま地面に衝突して、後頭部から叩き付けられた。
意識が遠退いていく。
僕はただサイガに憧れただけなのに…。
僕はただマイアさんの傍にいたかっただけなのに…。
僕は………、本当に……こんなことが……したかったの…かな?



「…ふむ、まだ加減がわからん。」
自分の力じゃない何かが右腕を動かしているのがわかる。
なかなか良い物だが、制御出来ないのでは意味がない。
「マイア!!」
アスティアもアヌビスも追い付いたか。
これで前に出て戦えるというものだな。
「アスティア、マイアを頼むぞ。俺はこれから、お仕置きタイムだ。」
「え…?ロウガ…、身体は…?」
「問題ない。それどころか少し魔力というものを解放しただけですこぶる調子が良い。ほれ、この通り。」
右腕を動かす。
おや、大分言うことを聞いてくれるようになってきたな。
さてはこの力…、女に極端に弱いな?
…男としては実に共感出来ることだが。
「ロウガさん、気を付けて!その子の傷が…!」
傷口が恐ろしい程早く塞がれていく。
まったく便利な力だな。
少年はクレイモアを持ったまま後方へ飛び退いた。
「わかってるよ、アヌビス。一筋縄じゃあ、いかないらしい。」
『…トドメヲ刺サナカッタノハ失敗ダッタナ。』
声が変わった。
なるほど、少年の意識がなくなった途端、妖気の主が顔を出した訳か。
『ダガ、コレマデノ攻撃デワカッタ。貴様ノチカラデハ我ヲ倒スコトアタワズ。』
「…やだねぇ、身体を持ってないヤツは。わからないか?俺はずっと手加減してんの。どれだけの血を吸ったかは俺の知ったこっちゃないが、これが俺の本気と思ったか?だったらテメエは大したことはないな。その程度だから年端もいかない餓鬼しか操れないし、不意打ちでしか相手を斬れない。しかも今回は不意打ちにも関わらず仕留め切れず二人とも生きている。その未熟な餓鬼ですら完全に操りきれていない貴様が、その程度の妖気で一端の妖刀面するとは実に嘆かわしい。」
『我ヲ侮辱スルカ!』
「侮辱に聞こえたか?それなら謝るよ。これは正真正銘侮辱だ。ハッキリと侮辱に聞こえなかったことは謝罪しよう。わかったか、鉄くず野郎。」
『貴様ァァァァァァ!!!』
おやおや、やっぱり脳みそないと獣以下だな。
簡単な挑発で、ここまで乗ってくれるとは実にやりやすい。
少年の身体が目で捉えられない速度で木々の間を縦横無尽に動き回る。
なるほどね。
速度で撹乱して…か。
『殺った!』
「悪くないが、せめて気配を消せ。」
真上から大剣の切っ先が振ってくるが圧倒的な殺意が、自分で自分の居場所を教えてくれる。
難なく避けると、逆手で剣を突き刺そうと振ってきた少年の身体が目の前の高さにある。
『バ、馬鹿ナ!?』
「馬鹿はテメエだ。娘とその餓鬼のやられた分、利子付けてキッチリ返してやらぁ!」
手加減抜きで左の掌底を刀身に叩き付ける。
鈍い音と共に刀身に亀裂が走る。
『ギャァァァァァァァ!!!!』
悲鳴を上げながら少年の身体が後方へ弾け飛ぶ。
「…歳は取りたくないねぇ。若い時ならこれで太刀を圧し折ったものだが…、なかなかうまくいかないもんだな。」
妖刀の力なのか、はたまた元の材質の問題か、実に頑丈な剣だ。
「ならば…、これでどうだ!」
左足を軸に、大きく踏み込み、後方に下がられた距離を零にする。
『早イ!?人間ノクセニ!!』
「あったりめぇよ。これでメシ喰ってるようなもんだからな!」
右腕にさらに魔力が加わる。
全身の関節を加速して作り出す衝撃を、右腕がさらに魔力で加速、強化する。
身体がかつてない程、滑らかに動く。
どうなることかと思ったが、実に素晴らしい右腕だ!
「気合を入れろ、右腕!せっかく美女が3人も見学してくれてるんだ。初陣でカッコ良いとこ見せて、男を挙げろぉぉぉ!!」
右腕に津波のような魔力が押し寄せる。
…なんか、こいつの扱い方が見えてきたような気がする。
『何ダ、コノ黒キチカラハ!?』
「テメエが言うな!!」
加速する右掌底が、亀裂の入った刀身を砕き、少年の腹に突き刺さる。
内臓が暴れ、背骨が悲鳴を上げる。
そして右腕から放たれた魔力が、少年の身体を操る邪気を砕く。
俺は刀身から、少年の身体の中から邪気が消えたのを確認
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