第十二話・セクシー・ヒーロー・レヴォリューション

【とある歴史書より】

 人は、何故『魔王』という存在を必要とするのか。
 かつて人類が脇役にもなれなかった有史以前の世界で神々が取り決めた役割とは別に、人間はしばしば自分たちの都合で実在する魔王とは別に『魔王』を生み出していった。21世紀現在、歴史という記録の中で確認されている中で代表的な『魔王』は、紀元1世紀に栄えた古代ティベリス帝国における皇帝・ゲルマニクスだとされている。現代までに『魔王』という悪名で知られている人物は古今東西で諸説はあるがおよそ18名挙げられており、その中には本伝に登場する“沢木狼牙”(書状によっては“後平(ごたいら)大納言義成”と名乗っている場合もあり)も含まれている。

 そもそも彼らが何故『魔王』の汚名を被らねばならなかったのか。

 それは極論してしまえば、たった一つの理由に辿り着く。
 先に挙げたゲルマニクス帝は帝国の風紀と体制を乱すとの理由で初期レスカティエ教を迫害した。また『荒原の魔王』の異名で知られるハトゥシェ王国のルリウマ1世は、史上初と言える魔界との対等な和平条約を結んだことでも知られている。ルリウマ1世の偉業の方がゲルマニクス帝の『悪行』よりもさらに千年以上前なので、本来なら彼こそが歴史上最初の『魔王』と呼ばれるべきなのだが、ルリウマ1世が『魔王』と認定されたのは何と19世紀における宗教衰退期になってからなので、彼は古代の人物でありながら宗教上では新しい『魔王』であると言わざるを得ない。
 さらに挙げられるのは沢木狼牙である。彼は魔界によって滅ぼされたレスカティエ教国の後継の一つであったヴァルハリア教会領(後に神聖ルオゥム帝国を侵略併合し“ヴァルハリア神皇国”と名乗る)を絶頂期の内に滅ぼすきっかけを作ったことで、かのデルエラ公と並ぶ歴史上と宗教上、二つの意味での大罪人であるとされている。

 おわかりいただけるだろうか。

 レスカティエ教およびヴァルハリア教を含めた派生宗派はただ神の言葉のみを必要としたのではない。彼らは自分が如何に正しいかを愚民に知らしめるために、自分たちの外に敵を作り続けてきたのである。愚民という言葉は言い方が悪いかもしれないが、彼らは信者が余計な疑念を持たぬようにあらゆる知識を自分たち教会で独占してしまった。そのため王侯貴族以外の多くの信者たちは文字も書けなければ読むことも出来ず、教会の言葉がすべて正しいことだと教育されてきたのである。
 その証拠として後ルオゥム帝国がヴァルハリア教圏を含めた辺境統一王朝を打ち立てるまで、この地域の人々の識字率は11,3%と非常に低い数字であったことが資料から読み解くことが出来る。それが後ルオゥム帝国統治5年後の資料では75%まで識字率が伸びるのだから、ヴァルハリア教会のこれまでやっていたことは神の教えなどではなく、人々の持つ知性への冒涜でしかないように思われる。
 そのような愚かな行為が、時に聖典の内容を大幅に都合よく改竄され、もはや宗教者と言い難いような教会内部の権力闘争や粛清も、すべて神の思し召しとして処理されてきた。そして何故魔物たちが悪なのかもわからないのに人々が憎み続けることも、すべてが教会の言いなりだったのである。恐ろしいことに、レスカティエ教が周辺諸国に王権を超えるほどの大きな影響力を与えるようになった紀元60年頃から沢木狼牙がセラエノという歴史の舞台に登場するまでのおよそ1500年もの間、特に反魔物国家が集中した辺境地域において人々は知識を奪われ、人生を搾取され続けてきた。それら人々を解放しようとした人物たちこそが教会に反逆する『悪魔』であり、魔物以上に危惧すべき存在『神敵』であり、決して教会が赦してはならない『魔王』なのであった。
 これが今現在尚憎まれ続けている『魔王たち』の正体であり、人間と魔物たちが対立させられ続けた『不毛の中世暗黒時代』の正体なのである。

(出典・明姪書房『教科書に載せると隣のあの国とかPTAとか(わん♪)教組がクッソうるさくてクッソめんどくさい歴史』より)




 

 それは、ある心優しい女神が見た夢



 野山に花が咲き乱れ、暖かな日差しが優しく降り注ぐ世界

 彼女はそんな世界を夢見ていた

 そこに生きる人々を心から愛していた

 だけど悲しいことに彼女の望んだ世界は邪悪な異形たちに壊されていく

 まるで獣

 まるで化物

 美しい世界は荒らされていく

 か弱き愛しい者たちが殺されていく

 だから彼女は人々に力を与えた

 闇を滅ぼす強い力を

 混沌を打ち払い、希望の未来へと導く強い光を

 やがて人々は彼女の与えてくれた光の下に団結した

 自らを喰らう邪悪に立ち向かうために

 その希望の光を人々はレスカティエと呼んだ

 彼女は少し恥ずかしかった

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