ゴトゴトゴト…
「まぁー、わかってますって。あたしは太陽を運ぶ『スカラベ』で、『ファラオ』様はその一番えら〜い太陽の化身だってことくらい、保育園中退のあたしでもわかってますから」
「………………………ぐすっ」
ジリジリと照り付ける砂漠の太陽。
そして砂漠を行くのはフンコロガシ……もといケプリが引く大八車(荷車)。
その中には何故かズタボロにやられたファラオが一人。
「それにしてもアポピスの姐さん、いつもながらドSですよねぇ。さっさと毒牙でファラオ様を堕としてしまえば早いのに、いつもいつも普通に痛め付けるだけで帰しちゃうんですから」
「………………む、昔からそうなのよ…アイツ…」
荷車の中で何かを思い出したファラオはシクシクと泣き出した。
「……そうよ……そうなのよ…!5歳の時も8歳の時も9歳の時も12歳の時も15歳の時も18歳の時も19歳の時も20歳の時も20歳の時も20歳の時も、アイツは私の前に現れちゃまるで子猫が狩りを覚えるように生かさず殺さずで、メタメタに……それも楽しそうに笑いながら痛め付けて…!!」
「………さすがファラオ様、執念深さが半端ねえっす。でも良かったですね。あたしがアポピスの姐さんの家の余剰魔力処理に行って。そうじゃなかったらファラオ様、間違いなくあのまま文字通りの『コブラツイスト』で昇天していたかもしれませんぜ」
そう、大八車に乗せられたままファラオが動かない、いや『動けない』理由は蛇の下半身を持つアポピスから文字通りの『コブラツイスト』を掛けられ、アントニオ猪木とは比べ物にならない、まるでタンスの角で小指をマッハでぶつけたようなダメージを全身に受けたためであった。
「こう言っちゃアレなんですが…」
「……何よ」
「正直ファラオ様とアポピスの姐さん、敵同士で姐さんはファラオ様の天敵だってのはよ〜く存じてますが分が悪過ぎですよ。姐さんは旦那持ちで魔力充実、しかも旦那さんはイケメンで資産家、都で名の通った魔術士だっていうし。勝ち目まったくありませんよ」
「わ、私だってファラオじゃないの!」
ファラオの反論にケプリは首を振ると、深い深い深い溜息を吐いた。
「ファラオ様は独身じゃないですか。それも彼氏いない歴が紀元前、まだ処女でしょ」
「し、し、しししし失礼なフンコロガシね!?」
「おや、彼氏がいたことあるんで?」
もちろんよ、とファラオは若干口篭りながら断言した。
だが、無論ケプリは信じておらず、ファラオに気付かれないように鼻で嘲笑った。
「あ、あの頃はモテにモテて、一時期彼氏が八人も……、そ、そう八人もいて曜日ごとに割り振っていたわ。もう身体がいくつあっても足りなかったくらいよ」
「へぇー」(棒読み)
「な、何よ、その気のない生返事は!あなたケプリのクセにファラオの言うことを信じてないの!?ほ、本当なんだから!それに私はファラオよ!彼氏いない歴=年齢だなんてある訳ないじゃないの!!処女賭けたって良いわ!!」
やっぱり処女じゃねえか!!
ケプリは心の中で激しく毒づいたが、さすがにファラオは砂漠で一番偉い魔物娘なので、喉からもうそこまで出かかったいた言葉をグッと飲み込む大人な対応で、何事もなかったかのようにファラオの『処女』発言を華麗にスルーした。
ちなみにこの地域で『一番偉い』魔物娘はファラオであるが、『一番エロい』魔物娘は間違いなく問答無用で、御意見無用で、銀河ブッチギリでアポピスなので読者諸君は御安心していただきたい。
「あー、ファラオ様。御自宅に着きましたよ〜」(棒読み)
「あ、あら、御苦労様。いつも悪いわねぇ」
ファラオの自宅、というより砂漠の真ん中に建つ古代神殿。
天敵であるアポピスへの下克上を夢見て、突撃していった主であるファラオがどうせまたボコボコにズタボロになって帰ってくるであろう、と見越していたアヌビスやスフィンクスといった彼女の家臣たちは、いつものようにケプリの大八車に乗って帰ってきたファラオを冷ややかな目で暖かく出迎えた。
「ども〜、スカラベ運輸で〜す!」
「いつもいつも御苦労様ですニャ〜」
ケプリの出した配送伝票にハンコ代わりに肉球を押すスフィンクス。
その横ではアヌビスたちが慣れた手付きで動けないファラオを、闘いに敗れた者に対する古来よりの慣わしに従って、彼女専用の戸板に乗せて寝所へ運び…
ゴスンッ
「へぎゃ!?」
「あ、ごっめんなさ〜い、ファラオ様。決して日頃の情けなさに怒りが爆発して〜とかじゃないんですけど、ほら、私たちって肉球じゃないですかぁ。つい『うっかり』戸板ごと落っことしてしまいましたわ〜。ほ〜んとごめんあさあせ、ファラオ様〜♪」
「ぬがああああああああああああーーーーーッッ!!!!!」
明らかにわざと落とされた。
しかも石の床に落とされたために、アポピスか
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