許さない…
許さない…
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…
この私を……
この私……?
ワタシとは何だ…
わからない………
わからないけど……わかるものがある…
頭の中にこびり付いた………アレの顔…
アレは殺さなければならない……
アレを殺さなければ……眠れない…
解き放て……
今すぐオレを解き放て…!
ああ、そうか………ワタシとはオレのことだった…
オレを解き放て……
アレを……
アレを守る者すべてをオレが殺し尽くしてやる…!
殺して、潰して、殺して、潰して、殺して殺して殺してやる…
それにしても腹が減った…
これっぽっちのメシでは足りない…
『ごぐんっ……みちっ…ぺきっ………ぐちゃぐちゃ…』
ああ………、これだ……この味だ…
アレの味ならどんなに美味だろうか…
アレの大事にしている………
アレの大事にしている……何だっけ…思い出せない…
ああ、何でも良いや…
アレの大事にしているアレも喰ってやったら……
アレはどんなに素敵な顔をしてくれるだろうか…
ああ、そんなことより腹が減った……
腹減った憎い腹減った憎い腹減った許さない腹減った殺してやる…
早く早く早く早く早く早く早く……
この檻檻檻檻……開けろ…
全部喰い殺してやる…
『………ごりっ……ごりゅ……あ………悪魔……ぶちん…』
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『戦争とは、これだから面白い』
そう時代を皮肉るように言い放った歴史家は誰だっただろうか。
その言葉に全面的な賛成は出来ないが、現代の多くの歴史家は肯定の意味で首を振る。
戦争という状況は、その人間の真実を曝け出す。
人々の目に映る姿が真実なのか。
それとも頼りない鍍金で飾り付けた虚構なのか。
神聖ルオゥム帝国新皇帝・紅龍雅の耳に、ムルアケ街道でセラエノ軍と旧フウム王国残党軍(旧王国義勇軍とも呼ぶ)との戦闘が始まったという情報が届くよりも2時間程早く、ヴァルハリア・旧フウム王国連合軍総司令官、フィリップ=バーントゥスクルの下にその報告が入った。
『戦略を崩す戦力』として敵に称賛されたのは誰であろう、あらゆる時代を通じて殺人鬼の代表格として名を上げられる、惨殺者・キリア=ミーナの若き日の姿だったのである。
彼女の活躍により、一時的とは言え旧王国義勇軍は優位に立ち、ロウガ率いるセラエノ軍を圧倒し、彼らは予言者アドライグの導きで帝国から1000の増兵をしたにも関わらず、徹底防戦を余儀なくされたのである。
もっともこの後、優位に気を良くした義勇軍は慢心し、決定的な隙を見せてしまったがために、ロウガの指揮の下でアスティア、アドライグ、クーレスト、フュニリィ、そしてヴァルハリア騎士団を退団し当てもなく放浪していたリオン=ファウストという歴史の悪戯としか思えない戦士たちが打って出たために、この戦闘は龍雅の予想した通り、超短期決戦で幕が下りるのである。
しかし、この時点では『ムルアケ街道の味方、圧倒的有利』と『義勇兵キリア=ミーナ、神敵の将を討つ』という味方の耳に入れば、イチゴによって奈落の底まで落ちた士気を一気に逆転出来る程の喜ばしい情報だったにも関わらず、フィリップ王はこの情報が広まらないように、情報を持って馳せ参じた使者を秘密裏に暗殺してしまったのである。
「……これ以上、我が名が落としてたまるものか。」
暗殺を決行したのは、彼と彼の派閥の貴族たちである。
フィリップ王は恐れたのである。
度重なる失策によって、彼の権威は連合軍の士気同様に落ちている。
彼自身、理解していたのだと思われる。
この連合軍の危うい結束は、ヴァルハリア教会大司教ユリアスの宗教的権威によるところと、貧しい身分出身である新鋭の英雄ヒロ=ハイルのカリスマ的な指揮によるところが大きいということを。
だからこそ、ムルアケ街道における自らの指揮によらない軍功、無位無官のキリア=ミーナが彼自身成し遂げられなかったセラエノ軍将軍の討伐という、大きな功績を知られる訳にはいかないと思ったのだろう。
もしもこの情報が連合軍将兵に知れ渡っていたら、連合軍は勇んで進撃を開始し、遷都を唱え、大移民を開始した帝国は、自分たちが行った神速の行軍を自ら味わうことになり、凄まじいヴァルハリア領民兵の凄惨な攻撃に晒されていたであろう。
その結果、民のほとんどは虐殺されていたはずだと推測出来る。
だが、史実はそうはならなかった。
フィリップ王は情報を隠匿し、図らずも帝国の民の命を、大勢救ったのである。
もっとも………、このように部下や無官の兵の功績を妬むような器の小ささが、このルオゥム戦役後すぐに訪れる彼の死因の一つになるのであるが…。
「当然、納
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