いつだって風任せ♪

春風が花の良い香りを運んでくれたから。

旅に出る理由なんて、そんなもので十分だと身勝手で小さな俺の相棒は言う。
お前は良いよな。
自分の足で歩かず、ただ俺の持つトランクに乗っかって移動するだけなんだから。
「えー、大変なんだよー?私たち羽があるからラクチンに飛んでるって言われちゃうけど、結構疲れるんだよ。それに次の町まで結構距離があるんだから、馬車だったり商人さんの荷台に乗せてもらったら良かったのに…。」
「お前、絶対に大人しくしねえだろ。それにさっきの町はどこかおわかりですか、おぜうさん。そう、反魔物の町だ。お前が顔出したりしたら、速攻で俺は袋叩きで簀巻きにされて河に投げ込まれていただろうよ。まったく…、これだから妖精ってぇのは、人間社会を理解しやがら……いてっ!?」
顔に何かがぶつかった。
足元に、ドングリが転がっている。
どうやら俺の小さな相棒がドングリを投げたらしい。
「あいあむのっと『ふぇありー』!何度も言うけど、私はピクシーなの!!そこんとこ夜露死苦って何度も言わせんじゃないの!!まったくこれだから人間の大人は私たちピクシーとフェアリーの違いに鈍感なのよね…。モンスター系のカードゲームやってる子供の方にも劣る理解力なんて、大人として恥ずかしくないのかしら…。」
ぶつぶつと文句を垂れる小さな相棒、もといピクシー。
…………ん?
そういえば……。
「なぁ……。」
「……何よ。」
「こんなこと、今更聞くのもどうかと思うんだけど……、お前の名前って何だっけ?」
「…………………………ちねぇーーー!!!」

べきっ(ドングリ)

ごきっ(拳)


基本的に俺たちの旅はこんなもの。
こんな旅をもう5年も続けている。
春風が花の匂いを運んでくれたから。
そんな理由でトランク一つで旅をするのも悪くはない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「まったく……、5年も一緒に旅をしておいて私の名前を知らないなんて失礼しちゃう。」
そう言いながらマグカップにお湯を張って、寛いでいる相棒。
ご機嫌なのか陽気に鼻歌を歌いながら、俺の歯ブラシで身体を洗っている。
………後で新しい歯ブラシを買っておかなければ。
「悪かったよ、ディアナ。一度聞きそびれるとなかなか聞けないものなんだよ。お互いに、おいとかお前で通じていたから……つい…な。つーか、お前だって俺の名前知らないだろ。」
「え、知ってるよ。でもあんたが私の名前を呼んでくれないから悔しくて呼んであげなかっただけだもん。じゃあ、これからはお互いの名前で呼び合うってことでおっけー?カミュール。」
……出来ることなら、その名前を呼んでほしくはないんだが。
二十数年前に俺を生んだ人め。
立派な男として生まれてきた俺に女の子の名前を付けやがって…。
「それにしても、やっぱりお風呂は良いわぁ〜♪ここ何日もお風呂に入れなかったから、気持ち良い〜♪人間の文化で、このお風呂だけは褒めてあげても良いよ。」
「はいはい、お褒めに預かり至極光栄でおございますですよ。」
まったく……、魔物とは言え年頃の娘さんが、男の前で風呂に入るなよ。
つるぺたに興味はないとは言え、もう少し恥じらいってものをだな…。
「にゅふふふふ♪そそられる?そそられる?」
ららら〜、と歌いながらディアナはわざとらしくお湯の中から足をピンと伸ばす。
そんなディアナの精一杯のセクシーポーズに溜息を吐きつつ、俺は路銀の残高確認とトランクの中の消耗品の確認して、明日買い出さなければならないものをリストアップしていく。
俺たちが立ち寄ったのは、辺境のとある辺境都市。
アヌビスとリザードマンが共同統治している不思議な町だが、何とも居心地が良くて、急ぐ旅ではなく自由気ままな旅だから、俺たちはこの町で宿を取ることにした。
ただ………、この町は旅行者が多いらしく、安宿すら満室だった。
町に入って手渡されたイベント告知のパンフレットには明日から一週間、鉱山温泉祭りとか、オリハルコン鉱山見学ツアーとか、色々なイベントが催されることになっているらしい。
ちょうど人出の多い時期と重なってしまったのが悔やまれるのだが、宿を取れずに難儀していた俺は、ジパングの着物を着た少年から空いているかもしれないという宿を教えてもらった。
少年の言う通り言ってみれば確かに空いていたよ。
でもな……。


<ギシギシ

<らめぇ…、さぎりねえさぁん…。もうこれいじょうはむりだよぉ。

<無理を通して道理を蹴っ飛ばす♪ほら、電衛門。お前の好きな前立腺だぞぉ♪

<あああああ……、らめぇ、みないれぇ…!かってにたっちゃう、たっちゃうよぉ!!


………娼館なんだよなぁ。
格安で泊まれたから良かったけど、精神衛生上はよろしくない。
「はぁ……。」
「あれ、
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