あの日から、俺はお前の姿だけを探していた。
すべてを失った俺に、お前は目標を与えてくれた。
ありがとう、感謝している。
お前を、
殺せる喜びを俺に与えてくれて!
群れる兵卒の中を掻き分けて、お前に近付いていく。
一歩。
また一歩と縮まる距離。
なかなか進めない短い距離がもどかしく感じる。
苦しかったよ。
辛かったよ。
手の中の温もりが、二度と戻らない日々の連続だった。
貴様に殺された妻と子の仇。
俺は確信を持って言える。
俺は…………、
今日、この日のために生きてきたのだと……!!
「右翼は敵側面を、左翼は予備戦力としてそのまま待機。本隊は密集隊形を取りつつ騎兵を主戦力とし敵正面を各個撃破で粉砕、攻略せよ!!」
ヒロ=ハイルの指揮の下、ヴァルハリア・旧フウム王国連合軍が動き始める。
あの一騎討ちからすでに1ヶ月が経過していた。
連合軍の総司令官である旧フウム王国国王フィリップの連敗による大規模行動の自粛、学園都市セラエノ・神聖ルオゥム帝国同盟軍大将である紅龍雅の放った離間の計により、元々様々な思惑の混ざった集団であった連合軍の連携を崩されたことなどの理由により、小競り合い程度の戦はあったものの再び長期的な睨み合いの様相を呈していた。
だが、連合軍上級騎兵大将・ヒロ=ハイルにとってその間の睨み合いはむしろ幸運であった。
あの一騎討ちの後、龍雅から与えられた兵法書を、彼はこの睨み合いの期間に熟読出来たのである。
元々、ヴァルハリア教会の神童と呼ばれたヒロである。
1ヶ月という時間はヒロが本の内容を暗記し、完全に理解出来るようになるには十分過ぎた。
兵の士気、自らの気力の充実、離間の計による影響がまだ薄い今。
それらの条件を鑑みて、ヒロ=ハイルは連合軍の半数を動かす大規模な行動を起こした。
将兵らにとっては、実に数ヶ月ぶりの大規模な軍事行動。
何ヶ月も陣中に留まり、何の楽しみもない彼らの不満を解消する意味でも、この軍事行動は非常に効果的であったと言えるだろう。
連合軍将兵はこれまで陣中に閉じ込められていた鬱憤を晴らすように戦った。
そんな彼らをうまく扱うように、ヒロは兵法書の内容をうまく活用し、指揮を執った。
この軍事行動を起こすに当たり、ハインケル=ゼファーや沈黙の天使騎士団は参戦していない。
沈黙の天使騎士団はフィリップ王の進言により、ヴァルハリア教会大司教ユリアスの勅命で騎士団員以外の戦力を剥奪された上、前線の陣ではなく、クゥジュロ草原での戦と同じように僅か数十名だけで中軍へと配置されたのである。
これこそ、龍雅の離間の計が連合軍中枢まで侵食している表れであった。
そしてハインケル=ゼファーは自ら出撃を辞退している。
その理由を当時の史記は明らかにしていないが、彼が亡くなる直前にまとめられた魔王軍公式文書によれば旧フウム王国の秘密兵器、及び王国のここ40年間の歴史を調査していたのだとされている。
「一騎討ちは避けろ!相手が魔物ではこちらが不利でしかない!!」
ヒロの戦術は徹底した集団戦だった。
個人武力を戦術の基本にしていたフィリップ王とは正反対の戦術である。
それにより、機能し始めた連合軍はこれまでの脆弱さから一転した。
これまでセラエノ軍の旗が翻るだけで恐れをなした兵卒たちですら、ヒロ=ハイルに率いられることにより恐怖を忘れ、勇敢に剣を、槍を構えて同盟軍に向かっていく。
これは兵卒たちの間にヒロ=ハイルへの熱狂的な支持が広まり始めていたことに起因する。
この日の大規模な軍事行動は成功かと思われた。
出撃してきた同盟軍を徐々に後方へ下がらせ、敵味方共に死者は少なかったのだが、この日の連合軍の勢いは序戦、クスコ川攻防戦の比ではなかった。
本当にこのまま買ってしまうのではないか。
誰もがそう思った時、希望はあっさりと恐怖と絶望に塗り替えられた。
ぎゃああああああああああああああああ……
同盟軍と連合軍が衝突する最前線から、無数の断末魔が一つの叫びとなって戦場に響く。
後方で諸将を指揮していたヒロ=ハイルの目に信じられないものが映った。
「人が……舞っている…!?」
地平を覆う真っ赤な間欠泉。
宙を舞う人間の形を留めていない人々。
およそ戦場ではあり得ない信じ難い光景にヒロも誰もが絶句した。
「何が……、一体何が起こっているのです!」
言い知れぬ恐怖を感じていたヒロだったが、必死に震えと動揺を抑え付ける。
真っ赤な間欠泉が吹き上がり続ける地平が幾度も続いた頃、やっと最前線から伝令が命辛々逃げ延びてきたと言わんばかりの表情を浮かべて、呂律の回らない舌で情報を持って帰って来た。
「セ、セ、セ、セラ、セラエノ…!て、敵、将!!ダ、ダ、ダオ……!!!」
それだけ聞いてヒロは全
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録