馬を走らせ、僕は異国の戦士の下へ行く。
出来ることなら語らいを…。
異国の彼は如何なる文化を知り、如何なる歴史を持つ国なのかを聞いてみたい。
未だ知り得ない異国の風を感じてみたい。
しかし現実は、そうではない。
紅龍雅はセラエノ軍の将軍で、リトル=アロンダイトは連合軍の武将なのだ…。
それが例え、仮初めの宿木であるとしても…。
「お初にお目にかかります。あなたとの一騎討ちを仰せつかったリトル=アロンダイトと申します。勝手な申し出だというのに、受けていただきありがとうございました。」
「これはこれはご丁寧に。お若いのに大したものだ…っと。確かこちらに投げ入れられた果し状には、ファラ……、そうだ。わぬしと同じアロンダイト姓の者だったはずだが…?」
「ファラは僕の父です。父は負傷してしまったために、代わりに息子の僕がお受け致します。」
義父上は負傷などしていない。
しかし、僕らの夢のために義父上を敢えて危険に晒す訳にはいかないんだ。
もしもの時が起こったら……。
もしも僕が討ち取られてしまっても、義父上は生き残らねばならない…。
ネヴィア義母さんが生きていて、運良く義父上と巡り合えたなら、きっと義母さんを愛せるのは、義父上だけなんだと思うから。
だから、義父上にもしもが起こってはならない。
まぁ、適当に戦ったら逃げるつもりだけどね。
「負傷…か…。それでは仕方がなかろうな。」
ふふ、と紅将軍は口元を歪めて笑った。
彼はおそらくわかっている。
義父上が負傷などしていないことを…。
それが彼の勘なのか…。
それともハインケルが両軍に渡って策を弄しているのか。
どうも今一つ判断が付かないのだけれど…。
「わぬしの父上は並ぶ者なき勇者であると聞いていて楽しみではあったのだが、それではいた仕方ないな。わぬしとは、このままくっちゃべるのも楽しいやもしれぬが、さすがにお互いにそういう立場では御座らぬし……。」
ブンッ、力強く鋭い音を出して、紅将軍が長大な湾刀を一振りする。
背筋に、冷たい汗が流れる。
「始めようか。」
切っ先を僕に向け、紅将軍はニヤリと笑った。
僕は……、適当に戦ったら、危なくなる前に逃げるつもりだ。
だと言うのに、手に握るメイスに力が入る。
あまり力の入っていない身体に、まるで一本の太い芯が背中に入れられたように姿勢を正し、鐙(あぶみ)を踏み締める脚が、鞍(くら)を挟み込む股が力を込めて、僕の意思を無視して、正面から一騎討ちを受けてくれた紅将軍の心意気に応えようとしている。
「お………、応ッ!!!!」
弾かれるように、馬の腹を蹴る。
地響きを上げて、土煙を巻き上げて、馬の蹄は紅将軍へ向けて、大地を駆ける。
馬の加速を十分に付け、僕はメイスを振り上げた。
「オオオオオオオオッ…、いざぁ!!!!」
紅将軍は一歩も動かず、馬上で長大な湾刀を大きく構える。
「尋常に……。」
「「勝負っ!!!」」
―――――――――――――――――――――――
神聖ルオゥム帝国軍・学園都市セラエノ同盟軍の精鋭たちの先頭、皇帝・ノエル=ルオゥムと軍師・バフォメットのイチゴが、一騎討ちの口上を述べている龍雅とリトルを見守っていた。
「………イチゴ。そなた、どう見る。」
どう見る、とはどちらが勝つかということ。
イチゴは軍師らしく、諸葛亮が持つような羽扇をクルクルと指で弄ぶと面倒臭そうに答えた。
「9対1でたっちゃんじゃな。あの若造には悪いが、場数と修羅場を踏んだ数が違うわい。」
「そうか?余はあの少年ももう少し食い下がれると思うのだが。」
バフォメットは首を振ると、羽扇を扇いで自身に風を送る。
「まぁ、世の中絶対はないのじゃ。オヌシにしてもそうじゃな。絶対攻めて来ぬと思っておった王国と教主国が攻めて来るし、同盟国は傍観を決め込んで助けには来てくれぬ。挙句の果てには、ワシら魔物が反魔物の旗を掲げるオヌシらを助けに来て、オヌシは『ワシ』の町と同盟を結んだのう。」
「イチゴ、セラエノはそなたの町ではないはずだが?」
「細かいことは気にするでない。まぁ、たっちゃんに危機が迫れば……、手筈通りに兵を動かす。たっちゃんが死ねば……、ワシは有能な将を2人も失うことになるのじゃからな…。」
もしものことがあれば、イチゴは一騎討ちを無視して兵を動かすつもりであった。
事実、後に明らかになるのだが、この一騎討ちの前夜にイチゴは帝国諸将やサイガ、リン・レンの双子将軍に命じてヴァルハリア・旧フウム王国連合軍の側面、それも本陣を急襲出来る位置に、数百の兵を伏せていたのである。
もしリトルがイチゴの予想を覆し、龍雅を追い詰める程の武を発揮したのであれば、伏せた数百の兵が連合軍本陣を急襲し、ユリアス大司教やフィリップ王を討ち取る手筈になっていた。
だが、この時イチゴは自分の思惑
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