第四話・思い出はいつの日も濡れ場

僕の名前はジャック=オルレアン。
童顔に悩む娼館『テンダー』の店長代理、27歳です。
妻は前店長で、サキュバスのルゥさん。
歳の差はわかっていますけど、やっぱり愛ですね。
それにあの人はいつまでも若いから、僕のほうがいつもリードされてばかりで。
僕の仕事ですか?
えっとですね、まずは朝、日が昇ると同時に起床ですね。
お店は昼から何ですけど、ルゥさんのお仕事の都合もありますので、まずは彼女を起こすことが最初の仕事です。
ルゥさんのお仕事は、作家さんです。
先日、お友達の話をモデルに脚本を書いたら、お芝居で大当たりしたらしくて、にわかに売れっ子作家さんですよ。気の早いことに劇場の支配人さんが次回作の脚本の依頼をしてしまったので、今ではお店で娼婦をするのは引退してます。
…でも実際には僕と結婚してからお店には出ていなかったんですよね。
「あ、おはようございまーす。」
はい、おはようございます。
あ、今のはうちのbPのディオーレさんです。
彼女、3年前にレッサーサキュバスからサキュバスに転生して、また魅力に磨きがかかりまして。ここだけの話ですけど、彼女、まだレッサーサキュバスだった頃に激しい失恋をしたことがあるらしいんですよ。
失恋すると、女の子は綺麗になるっていうけど本当ですね。
ああ、僕の仕事ですね。
朝は彼女を起こした後は朝食を作ります。
時々お店の女の子が、店に泊まって夜明かしするので彼女たちの分も用意することがありますが…、朝食の後は僕が奥さんに食べられちゃう訳で。
そして開店までにベッドメイクをしたり、プレイ道具のチェックですね。
特にうちはルゥさんのお友達で…、あ、知ってます?
そうです、ロウガさんの影響で色んな種族の女の子が在籍していますので、準備が大変ですよ。例えば蛇の半身持ってる女の子とか、お客様の上を這いずり回るのに女の子の肌とお客様の肌が擦り切れたりしないように、ローションの備蓄はいつだって欠かせませんし。
開店してからはお客様のプレイが終わった後の掃除にベッドメイク、女の子の労いですね。これはきっちりやっておかないと、次のお客様に不快感を与えてしまいますから気を抜けません。女の子の労いも店長としては当然です。
閉店後は、最後に徹底的に掃除をして、売り上げの計算ですね。
女の子の送迎はロウガさんの奥さんの紹介で、リザードマンの自警団の方々と契約を結んでいますので、世界で一番安心できます。
これで、僕の仕事は終わりなんですが…、その後はルゥさんのお相手です。
おわかりと思いますが、僕の睡眠時間はほとんどありません。
でも不満はありません。
今日もこれ、ホルスタウロス印の『疲れをぶっ飛ばす神のドリンク』を飲んで頑張ります。
ちょっと、失礼。
(べき、べき、べき、かしゅかしゅかしゅ…ごきゅごきゅごきゅ!)
ぷはー。
ごめんなさい、今日、これで3徹なんで(笑)。
あ、今日は取材ありがとうございましたー。
もしよろしければ、いつでもご利用なさってください。
うち、娼館だけじゃなくて、希望があればラブホテルとして部屋を貸し出したりしてますので…、恋人と一緒にご利用してくださいねー。


――――――――


16年前、僕はまだ11歳の子供だった。
父がギルドの郵便配達員だったけど、その日たまたまぎっくり腰で倒れて僕が父の代わりにギルドの更新情報を配達していた。
あの日まで、僕の人生は平凡に終わるのだろうと思っていた。
あの人に出会わなければ……。

「あ、あの、こんにちは…。」
全裸の紳士が店先で気迫をぶちまけていたので怖かった。
全裸の紳士がいなくなったのを見計らって、僕はおずおずと娼館のドアを開けた。
「あら、可愛いお客様ね。駄目よ、まだボクみたいなお子様がこんなところに来ちゃ。もう少し大きくなってから、ね?」
そこにいたのは美人なお姉さんだった。
手元で何か書類を分けていたけど、その手を止めて、僕の鼻先を人差し指でピンッと一押しして、ウインクして僕を諭した。
胸がドキドキする。
「え、あの、ぼ、僕、ギルドの連絡員でして…。今日は父の代わりに…!」
緊張してうまく喋れない。
「あら、可愛い連絡員さんね…って、え?あの郵便配達の爺さんがお父さん?」
「は、はい。」
「あ、あれがお父さんって、ボク、あの人、何歳なの?」
父は78歳。
10人の妻がいて、僕の母は7人目の妻。
そして僕は36人の子供の中で29番目の子供。
「はー、人は見かけによらないわ…ってギルドの郵便配達ってそんなに儲かるの?」
「いえ、郵便配達自体は儲からないんですけど、お父さんは副業として色々な事業に手を出していまして、いつかケーザイの裏から世界をギュージってやるって言っていました。」
意味はよくわかりません。
「そ、そうなの…。ところで。」

ギラリン
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