龍姫のお婿様

「クックック……、待っておったぞ。勇者よ。」
龍魔神殿と呼ばれる宮殿の玉座に座る漆黒ドラゴンは嬉しそうに笑っていた。
俺、勇者ライディ……じゃなくて、紅牙を待ちかねていたと見えるドラゴンの姫君はゆったりとした動作で、優雅な物腰で玉座から立ち上がった。
「こうして顔を合わせるのは初めてだな。我が名は龍皇姫アルバ。我が部下たちを次々と打ち倒し、我が野望、人界魔界征服をたった一人で阻む男とは、どのような男なのか楽しみにしていたぞ。」
「お眼鏡に適ったかい?」
「それをこれから確かめよう。」
バチバチと龍皇姫アルバの手の平に漆黒の火花が弾けた。
暗黒の雷を使うと聞いたことがあったが、ただ立って微笑んでいるだけだというのに圧倒的な威圧感が俺を襲う。
気を抜いたら、それだけで教会に逆戻りしてしまいそうだ。
………え?
何で教会かって?
俺が知るかよ。
何度か死んだことがあるけど、目が覚めたらいつも教会にいるんだよ。
それで司祭が言いやがるんだ。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けなぶるぎゃあー!!!」
まぁ、最後まで言わせねえけどな。
何もしないクセに文句ばかり言うやつには鉄拳制裁だと決めている。
「……どうした勇者よ?」
「あ、悪い。」
少し考え事をしていたら、何故かアルバが寂しそうに不安な顔をしていた。
そして不安な顔をしていたかと思えば、頬を膨らませてそっぽを向いて口を尖らせていた。
「こ、この無礼者め!貴様は龍皇姫の御前に立っているというのに、私のこと以外に何を考えていたというのだ!!べ、別に良いのだぞ。無理に私なんかと戦わなくたって…。」
腰に手を当てて、真っ赤になって悪態を吐く彼女。
何だろう、龍皇姫ってのはこんな可愛い生物だったのか?
「いや、すまない。ちょっとムカつく司祭とか、お前を退治してくれって頼み込んでおきながら、ヒノキの棒と50zしかくれなかったケチな王様のことを思い出していた。」
「ヒ、ヒノキの…!?その者は私を舐めているのか!?」
俺もそう思う。
50zなんて子供の小遣いより低いぞ…。
おかげで、今の剣を手に入れるまでヒノキの棒に釘を何本も突き刺して、勝手に攻撃力を底上げして戦い続けていたものだ。
そんな思い出話をアルバと話していると、同情してくれたのか、彼女は部下にお茶を持って来させて俺に勧めてくれた。
人のやさしさが身に染みる…。
人じゃないけど。
「そなたも大変だったのだなぁ…。」
「わかってくれる!?別に俺、世界を救うとかそんなこと目標にしていなかったんだよ!なのにさ、ちょっと強くなったと思ったらみんな過剰に期待して世界を救えとか、お前の侵略を一人で食い止めろとか好き勝手言いやがってさぁ。俺のことを何だと思っているんだよ…。俺は三国無双とか戦国無双みたいな一騎当千の無双武将じゃねえんだぞ!!」
レベルだって40くらいなのに…。
「うん、うん。私もよ〜〜〜くわかるぞ。周りの過剰な期待にどれだけ傷付くか、私ならよくわかるぞ。力を付けて領土を広げて、魔王を倒して天下を奪い取れとか両親も親戚も期待しているしな。」
「わかる!わかるよ!!」
「飲もう!今日は龍皇姫だとか勇者とか忘れて、とことん飲もう!!おい、誰かあるか。酒だ、珍味だ、華が足らぬぞ。女たちに華やかな衣装を着せて酌をさせよ。今日はとことん飲み倒すぞ!無礼講である。部下たちを全員連れて参れ!!!」
戦いに来たはずが、夜通しドンチャン騒ぎが始まった。

そして――――――――


チュン、チュン、チュン……

「やっちまった…。」
二日酔いで頭がガンガンして目が覚めると、パンツ一枚穿いていない。
そして俺の胸を枕にするように頭を乗せているアルバも、スッポンポンで俺の右腕を大きな胸で完全に挟み込んで幸せそうに鼻歌を歌っていた。
「すごかった♪」
これって……、責任取るべきだよね?
俺もこいつがすごく可愛く感じるし。


こうして俺たちは夫婦になった。
勇者と龍皇姫の結婚は、俺の雇い主たちや彼女の近隣諸国に衝撃を与えたが、俺は彼女の侵攻を止めることが出来たし、近隣諸国も彼女の侵攻に怯えることがなくなったので万々歳だったりする。


―――――――――――――――――――――――


俺は龍皇姫の夫、紅牙。
と言っても俺に何の権力もなく、日夜家事の出来ないアルバに代わって家事をする専業主夫の元勇者。
今日もバッチリ、青空の下で洗濯物を干す。
真っ白に洗ったシーツが気持ちの良い風に吹かれている。
ベッドのシーツは毎日洗濯。
これが我が家の常識。
え?
何で毎日洗うのかって?
簡単さ、毎晩激しいから朝になる頃にはドロドロになっちゃうからさ。
おっと、今のは妻には内緒な。
気が付けば、アルバと夫婦になって2年が経っていた。
お互いのことは直接は知らなかったけど、お
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