「マイア、見たよー。今日も熱いねぇ。」
「その話はやめてよ…。娘の気も知らないで…。」
「仲はすごい良いんだろ?だったら良いじゃん、あたしんとこなんて、ミノタウロスだから…。今朝も色んな意味で大変だったよ。親父がトマト料理作ったり、うっかり赤いハンカチだしたり、親父が飲み屋であふくろよりも若い女の子と口利いたのがばれて、おふくろが焼きもち焼いて、家の中壊したり…。」
「あああああ、ごめんごめん!そんなに暗くならないでぇぇ!!」
ここはセラエノ学園の第三教室。
ロウガがかつてアスティアと戦い、倒したことによって得た報酬で10年前に建てられた学園である。学園といっても全部で3クラス分の教室と職員室、音楽室と広い運動場と図書館がある田舎の分校程度の広さでしかない。
本来はセラエノ学園などという大層な名前ではなく、ロウガが娘のマイアの教育も兼ねた私塾程度の認識で始めていたのだが、ロウガの教育方針に感銘を受け、砂漠の古代都市よりアヌビスが教師陣とし加わってから、その体制は大きく変わることとなった。
アヌビスの全知識を駆使して行われた改革は、ロウガの基本方針である『人と魔物が共存出来る社会作り』と『地域社会の教育水準の向上』をそのままに施設の拡充、生徒数の大幅な獲得を前提にした教員の補充、などが挙げられる。さらにロウガの基本方針に彼女がさらに付け加えたのは、健全な精神を作り上げるため、リザードマンのアスティアの監修の下での武術訓練、スポーツ授業の推奨も挙げられる。健全な知識とは健康な肉体を作ることで、さらに効果が上がるというアヌビスの主張だったのだが、どうやらこれには汗を流して爽やかに運動する少年少女の姿に欲情している彼女の性癖も多分にあったようである。
またロウガが根を下ろした町は、確かに親魔物勢力の町なのだがその歴史があまりに新しく、いまだ、人々の間には魔物への迷信がまかり通っているなど、人々の意識を変えていく必要があると感じていた。もっとも彼の場合、それが本来持ち合わせていた教育意識の高さ、良識から出た考えではなく、愛する娘と愛する妻の未来を案じただけにすぎないというのが本当のところである。
そこへアヌビスの持ち出した案はロウガの考えと合致した。
元々莫大な報奨金の使い道に困っていたロウガは何の迷いもなく施設を増設、そしてアヌビスの人脈を駆使して町の図書館を凌ぐ知識の塔を目指して、大陸屈指の蔵書量を誇る図書館が作られた。生徒は人間と魔物問わず入学を許可し、年齢も性別もごちゃ混ぜにして、ロウガの考える基本方針の下で机を並べて授業を受ける。
後にロウガの死後100年経った後、この体制は潤沢な資金の下でさらに強化され、大陸中の学士、魔術師たちの憧れの学び舎としてその名を馳せることになるのだがこれは余談。
「でも学園長先生もすごいよな。あたしの親父よりも年上とは思えないぜ?」
「う〜ん…、そこは確かにすごいと思うけど、家の中では寝ているか、母上といちゃついているか、稽古付けてくれるくらいであんまりすごいとは思わないなぁ?」
「わかってねぇな。50歳であの引き締まった身体、若々しい精神力、しかも若い時から豪傑だったって親父が言ってたけど、いまだに陰りがない武力!これだけ揃っていりゃ、文句の付けようがないぜ。」
マイアの友人、ミノタウロスのコルトは羨ましそうにマイアに捲くし立てるが、当のマイアはというと彼女のイメージと自分のイメージが噛み合わないので苦笑いしていた。
「ま、身内じゃあのすごさはわかなんだろうな。でもああ言う人を父親に持つと、あれくらいの男気持ってないと、マイアは落とせそうにないよな。そういう訳だからさ、お前も、頑張れ、よ!」
コルトは自分の席の横に座る少年の背中を思いっ切り叩いた。
その衝撃で少年は肺から空気が出て、むせ返る。
「げほっ、ちょっとコルトさん、痛いよ。」
「お前、また武術の授業で赤点スレスレだったろ?そんなんだと、大事なもの逃がしてしまうぞ。」
ニヒヒ、と笑うコルトに少年は、
「か、関係ないだろ!」
と顔を赤くして反論する。
少年の名は、サクラ。
マイアより2つ年下の15歳の何の変哲もない、両親共に人間のただのごく普通の少年である。母がジパングからやってきたためか、故郷を忘れないようにと彼の名前に国の花、桜の名を付けられたのだが、その名前が主に女性に付けられる名前であるという認識から、少年はいつも恥ずかしい思いをしている。もっとも彼自身、少女と見まごうばかりの女顔なので、その思いに拍車がかかっている訳である。
コルトの言う通り、サクラは武術が苦手である。
セラエノ学園において武術は必須科目ではない。武術が苦手であれば、学問に打ち込む、魔術などを専攻して世界を知るなど様々な選択肢があるのだが、サクラは敢えて苦手な武術
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