あー……………、暇だ。
まったくついてないよなぁ。
ちょっと経費をちょろまかしただけで、まさかこんな同盟側の国境警備に飛ばされるとは…。
俺はもっと華々しい部隊にいたいんだよ。
魔物に味方する連中と、こう……ズババーンとか、ジャキーンとか。
とにかく手柄を立てて立てて立てまくって!
いつかは左団扇のお大臣様に俺はなりたいというのに…。
砦の上で今日も空を眺めている。
……………あ、ハエ。
「おいおい、キール。いくら敵がいない楽な部署だからって気を抜くなよ。」
「あー………、隊長。」
「何だ?」
「戦争、起きないっすかね?」
バコ
「痛〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
兜越しにゲンコツの衝撃が…!
「まったく、平和なのはありがたいことなんだぞ。それにうちの帝国は陛下がまさしく名君と呼ぶに値するお方だから、国内外共に安定しておる。それだというのに、戦争を望むとは……。」
「でも、隊長…。正直、同盟国との国境警備なんてやることがなさすぎます!俺、こう…、悪党をビシっとブッ倒すような戦士に憧れて兵隊になったんすよ?」
「む……、その気持ちはわからんでもない。ワシも若い頃はお前のように力を持て余していた。お前と同じように同盟国の…、それも教主国であるヴァルハリアとの国境なんか必要なのかという疑問を感じたことがあった。だが、見ろ。国境を越え、巡礼の旅に出る信者たちを守護し、道中の安全を守るというのも我らに与えられた偉大なる使命………っておや?今日はやけに旅人が少ないじゃないか。」
隊長が記録帳を見て首を捻る。
いつもならそこそこに人数がこの国境の関所を越えて行くのだが、今日は今朝から数える程しか人が出て行かない。
それもヴァルハリア方面からは人っ子一人来ない有様だ。
「大方、教主国で何か祭典でもあっているんじゃないのか?」
「だからって暇すぎま………ん?隊長、アレ。何でしょう?」
砂煙がものすごい勢いで迫ってくる。
よく見ると何やらキラキラしたものが、砂煙の中で動いていた。
「わ、わからん!総員、警戒態勢を…!!」
砂煙から逃れるように見慣れた鎧を着た男が馬に乗って関所へ駆けて来る。
あれって、確かこのあたりを巡回しているやつじゃない?
他のやつらはどうしたんだろう…。
やけに慌てているじゃない。
「おーい、慌ててどしたのさー!ついでにありゃ何だー!?」
馬に乗ったやつが顔を上げる。
遠目からハッキリわかる程、その顔に恐怖が浮かんでいた。
「て、敵襲ぅぅぅぅぅぅぅーっ!!!我ら警邏隊、我を残して全滅ぅぅぅーっ!!!て、て、て、て、敵は………!我らが教主国、ヴァルハリアにございますぅぅぅぅーっ!!!!!」
退屈な日常が終わる。
怠惰な平和が終わる。
宣戦布告もなく、ヴァルハリア教会領と神聖ルオゥム帝国の国境沿いの小さな砦は、その長い平和から大した防御機能も果たすことが出来ず、一日も持ち堪えられずに壊滅した。
退屈を嘆いた男も、その人生を終わる。
誰のものともわからぬ肉塊になり、小さな砦の中は本来の住人が死に絶え、返り血に塗れたヴァルハリアの民で溢れた。
かつて誰よりも信仰深く、慈悲深いと謳われた彼らの姿はない。
そこにいるのは、同じ信仰を持つ者を教会に言われるまま悪魔だと信じ込み、残酷に兵士が息絶えても尚槍で突き刺し続け、たまたまそこにいた修道女を力尽くで代わる代わる犯し続ける、人間の狂気を解放した神の使いを名乗る邪悪。
ここは殺しの庭。
ここは心の奥底に封じ込めた歪んだ願いを叶える箱庭。
楽しい楽しい血塗れのピクニック。
照り付ける太陽の下で、
解放された狂気に人々は信仰を盾に舌を出してせせら笑う。
目の前に生きる人間の姿はなく。
目の前には神と人間の嘘が深い溝を残す。
これが後に語られることとなるルオゥム戦役の始まりであった。
―――――――――――――――――――――――
「こ、これがヴァルハリアの人々なのか…!?」
リオンは恐怖していた。
楽しそうに死体を解体し、息絶えた死体を犯し続ける兵卒たち。
ヴァルハリア騎士団と旧フウム王国側の兵が辛うじてその規律を保っていたのだが、1万人を超える兵卒たちは覚えたての殺戮の技を行使することに喜びを見出し、兵卒たちはそのまま暴徒に近い存在となっていた。
もう、敵と定められたルオゥム帝国の砦に生きる者はいない。
すべて彼らが殺し、犯し、奪い去ってしまった。
さっきまで生きていたと思われる捨てられた修道女の死体は、絶望と憎しみが刻み付いた顔のまま、不謹慎な美しさを保ったまま、穢されている。
兵士たちは無邪気な子供が虫を解体するようにバラバラにされ、彼らが飽きるまで剣を、槍を突き続けたせいでボロボロになって大地に沈む。
「やめ……。」
「リオン、おやめなさい。」
リオンがそんな彼らを止めよう
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