「剣士さん!剣士さん!!」
突然倒れた剣士さんを揺すっても、剣士さんは目が覚める気配がない。
あの人と戦って剣士さんも怪我をした。
もし……、このまま目が覚めなかったら…!
一瞬、嫌な想像をしてしまって、私は血の気が引いた。
二度と、剣士さんの目が覚めなかったら…。
嫌だ…!
そんなの絶対に嫌だ!
「ねぇ、剣士さん!起きて…。起きてよぉ…!また…、私を怒ってよぉ。怒っても良いから……、私のこと嫌いでも良いから、目を覚ましてよぉ!」
私は剣士さんに泣きながら縋り付いた。
その時、私は大きくて暖かい手に後ろから頭を撫でられた。
まるで剣士さんみたい乱暴で、やさしくて…。
「…大丈夫さね。死にはしないよ。」
「あ………、ダオ…。」
振り向くとそこにいたのはドラゴンのお姉さん。
一瞬、ダオラお姉さんだと思ったその人は、私のまったく知らないドラゴンだった。
傷だらけの顔でそのお姉さんは、やさしく私に笑いかけてくれる。
「あたいが……、こいつの部屋に運んでやるよ。」
「え……………、でも………。」
確かに私じゃ気絶した剣士さんを運べない。
でも見ず知らずの人に頼るのも気が引けた。
私が迷っていると、お姉さんは察してくれたみたいで、ごめんと言った。
「突然すぎたみたいだね。わりぃ、あたいの悪い癖みたいなもんだから許してくれると嬉しいよ。でも、安心して良い。あたいはお嬢ちゃんの……、いや、このぶっ倒れている馬鹿の味方さ。少しだけ……、寄り道していて遅くなってしまったけどね。だから、せめてこいつを運ぶのを手伝わせてくれないかい?」
ガチンと鉄がぶつかるような音がする。
音はお姉さんの足から聞こえてきた。
さっきまでの剣士さんの戦闘が頭の中に残っていて、とっさに私は警戒して身構えた。
ああ、これかい、とお姉さんは苦笑いをしてズボンの左の裾を上げて見せてくれた。
剣士さんの左腕みたいに無骨なデザインの足が姿を現した。
「驚かせてごめんな。こんな訳で、あたいはお嬢ちゃんたちが危ない目に遭っていたのに助けに行くことが出来なかった…。だからせめて、こいつを寝床まで運ぶのを、あたいにやらせてくれないかな?」
悪い人じゃなさそうだ。
だってすごく…、やさしそうな目をしているんだもん。
『おい、今外で何か聞こえたぞ。』
『お、おい!ロウガ、突然目を覚ましたと思えばどうした!?』
あ。
ルゥさんのお店が何だか騒がしい…。
今の声って…、学園長先生?
そっか…、先生たちも天使様を守ろうとしてくれてたんだ。
「さて、人が来てしまうし、あたいは先にこいつを運んで行くよ。」
そう言って、お姉さんは剣士さんをよっこいしょという声を出して背負った。
「え……。みんなと一緒に…。」
お姉さんは首を振った。
「…事情があってね。あたいはともかく、こいつは人様に迷惑をかけまくった身だから…、いくら誰かを守ったからって大きな顔して会っちゃいけないんだよ。」
「でも…!」
「お嬢ちゃんも大きくなったら理解出来るよ。それにこいつは例えそういう身でなかったとしても、人に誇ることはない。だから逃げるのさ。お嬢ちゃん、劇は好きかい?」
「はい、大好きです!」
「色んな劇のヒーローを思い浮かべてごらんよ。ヒーローは誇らない。やるだけやって、全部が終わったらさっさと消えるだけさ。」
―――――――――――――――――――――――
『おかあさん、きょうね。きょうね。』
『あはは、そうかい。今日はそんなことがあったのかい?』
夢を見た。
帰らぬ日のささやかな幸せ。
ああ……、懐かしい…。
故郷の山。
向かう側に落ちる夕日。
母さんの暖かな背中に背負われて、俺たちは家路に着く。
『えへへ。おかあさんのせなかってあたたか〜い♪』
『そうかい?自分の背中は自分じゃわからないもんなぁ。』
まだ友達も大勢いた。
同じくらいの年頃の友達が母さんの周りでぐるぐる楽しそうに回っている。
魔物は珍しくない。
そんな土地だったけど、考えてみれば母さんみたいなドラゴンはいなかったな。
そんな母さんが珍しくて、近隣の子供が母さんと遊びたがっていた。
思い返せば、子供好きな人だった。
母さんの話によれば、俺が生まれてすぐくらいに起こった戦争で両親が死んで、瓦礫と灰だけになってしまった村の中に一人、生まれたばかりの俺が力の限り泣いていたらしい。
たまたまその滅んだ村の様子を見に来た母さんが俺を見付け、そのまま拾われて俺は母さんの子供になった。
だからなのか、母さんは子供を拒まない。
いつもやさしく接してくれた。
『ウェールズ、あんたはあたいとは血が繋がっていない。でもね、あんたはあたいとの絆は繋がっているんだよ。どんなに遠くにいても、例えどちらかがこんな息が詰まりそうな時代の犠牲になったとしても、あんたが生きている
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