第六十七話・VINUSHKA

砂漠のオアシスでは何も良いことがなかった。
お母さんもお父さんも教会の人たちに殺されて、私はあの町で孤児になってしまった。
同じように両親を亡くした友達と一緒に何とか暮らしていたけど、結局生き残ったのは半分だけ。
あの日、たまたまあの人たちがオアシス都市に来なかったら、私も友達と一緒にお墓の下で眠っていたかもしれない。
アルフォンスってお姉ちゃんが私の手を引いてこの町まで連れて来てくれた。
あの町で生きてきたけど、初めて会った私を町に来るまで手を握って一緒にいてくれて、そしてこの町に移り住んで来た今も、お姉ちゃんの家で私の面倒を見てくれている。
お姉ちゃんは、
「同族が、これ以上辛い目に会うのは見たくない。」
って言って、いつも私に笑いかけてくれる。
私はお姉ちゃんが大好きだ。
私の尻尾の先にいつもリボンを巻いてくれる。
いつも私がお姉ちゃんにしてほしいことを、何も言わないでしてくれる。
今日もお姉ちゃんはお仕事だ。
私と同じ種族が集まって出来てる自警団で、お姉ちゃんはお仕事をしている。
何をやっているのかよくわからないけど、お姉ちゃんが仕事で頑張っている間は、私は町の学園でお勉強とか、学園のお手伝いとかを頑張っている。
学校って生まれて初めてだったけど、先生も良い人たちばかりで、ここでも友達が出来た。
砂漠から逃げてきた友達も、やっと笑えるようになった。
ここが、この町が、私の家なんだって最近思えるようになってきた。
「お、確か……、そうだ。アルフォンスんとこの、ガーベラか。」
「あ、学園長先生。こんにちはー!」
このヤクザみたいな人は、学園長先生。
顔は怖いけど、学園の生徒全員の顔と名前を覚えているすごい人だ。
「どこか行っていたんですか?」
「まあな。とりあえず子供が行っちゃいけん場所に行ってきたんだが……、ふむ。ガーベラ、お前アルバイトする気はないか?」
「アルバイト、ですか?」
「ああ、簡単な仕事だ。ちょっと高貴なお客がうちの町に来ているんだが、その人のお世話係になってほしいんだ。今まで不足した物資とかを俺やアスティア…先生が、揃えたり身の回りの世話をしていたんだが、実は俺もアスティア先生もこれから少し忙しくなりそうなんだ。そこで、お前さんだ。たまたま会ったのも何かの縁、ってことで頼まれてくれないかな?」
アルバイトかぁ。
う〜ん、お姉ちゃんにばっかり負担をかけさせているから嬉しい話なんだけど…。
「給金は日当金貨2枚出す。それに仕事中の食事はフラン軒で全部俺持ちで食って良い。」
「やります!私、やります♪」
やった、私が好きなフラン軒で食べ放題♪

軽い気持ちで始めたアルバイト。
でもリザードマンとしてまだまだ子供な12歳の私にとって、その時に起こった事件はきっとずっと忘れることが出来なくて、生涯をかけてその背中を追いかけたいと思ったあの人に出会った、そんな戦争前に起こった嵐の記憶。


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「あら、あなたがロウガさんの紹介してきてくれた子?」
「はい、よろしくお願いします!」
この人が、学園長先生の友達のルゥさん…。
サキュバスの人って周りにいなかったから知らなかったけど、こんなに綺麗な人なんだ。
「てっきり、サクラ君かマイアが来ると思っていたわ。」
「えっと、先輩たちは何かしなきゃいけないことがあるらしくて、代わりに私がお世話係に選ばれました。」
あの人はもう…、ってルゥさんは苦笑いをしている。
「…ところで、ガーベラちゃん。ここって、どういうとこかわかってる?」
「学園長先生は、大人の遊園地って言ってました。」
楽しいトコですよね、と聞くとまたルゥさんは苦笑いをした。
今度は頬がピクピクと引き攣っている。
「アスティアに言ってきつく叱ってもらわないと…。ここはね、本当はガーベラちゃんみたいな子はまだ来ちゃいけないとこなの。でも…、あなたにはここでのお仕事をしてもらう訳じゃないから良いかしらね。あなたに頼みたいお仕事っていうのはね、あるお客様のお世話…、お食事の用意をしたり、話し相手になったりっていうお仕事なの。その人はある事情で、今は公に外を歩いちゃいけない人なの。だから、今まで私や主人がお相手してたんだけど、お店の仕事と劇場の仕事が忙しくなっちゃって…。こんな時期にこんな仕事をしていられるのも奇跡だから、ぼやいちゃいけないんだけど…。」
「劇場………、あ!もしかして『心の鈴を鳴らして』のルゥ=オルレアンさん!?」
「え、そうだけど、見てくれたの?」
「生まれて初めて見たのがそれです!お小遣い使って何度も見に行きました!てゆーかファンです!!後でサインください。」
「ありがとう。でも珍しいわね、役者さんじゃなくて原作者のファンなんて。」
エレナ役のジャクリーンさ
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