「はじめまして。ご主人。アゼリアだよ。よろしくね」
パパが死んだ日、“それ”はやってきた。
“それ”は派手なお手伝いさんの格好をしていた。
何もわからなかったぼくに、“それ”はお節介だった。
「そうだ。チーズオムレツ好きでしょ?甘めの」
「なんで知ってるの」
“それ”は何故かぼくの好みを知っていた。
「はい♪あーん」
「いらないよ!自分で食べるから!」
隣に座ってにこにこしながらスプーンを差し出してくる“それ”は、人ではなかった。
オートマトン。ひとりでに動く大昔のロボットの名に因んだ“それ”は、最新のAIを搭載したパパの作品だった。
「おいしい?」
「うん」
「少しずつでいいよ。食べられるものから食べよ」
「うん」
“それ”はどんな大人より図々しかった。他の大人はぼくを放っておいてくれたのに、触らないでいてくれたのに、“それ”だけは違った。無理矢理ごはんを作って食べさせてくる。
「何かしたい?」
「なんにも」
「そっかー」
それ以上追及してこない。ただ隣にいるだけ。“それ”はやけに温かくて柔らかかった。
「お風呂入ろっか」
「え」
「身体をあっためるとリラックスするんだよー」
「ちょっと」
アゼリアはマイペースだった。いつの間にか用意してあったお風呂へ連れていく。
「はーいバンザーイしてバンザーイ」
「いいよ一人でできるから」
あっという間に服を脱がされ、彼女自身も裸に。
「甘えとけ甘えとけ〜」
「わぷっ」
背中にでっかい柔いものが当たってる…
彼女はマイペースにぼくの頭を丁寧に洗った。
「かゆい所ありませんか〜?これやってみたかったんだよね」
「ロボットのくせに。防水とか大丈夫なの?」
「お?心配してくれるの?嬉しいね。大丈夫完全防水だよ」
ぼくは背中にとてつもないものを感じながらされるがままになっていた。
そのままシャワーで泡を丁寧に流され、全身を洗いはじめる。
「前は一人でできる?」
「で、できますっ」
「はいはい。お任せしますね」
彼女は自分を洗い始めた。湯気であまり見えないけど、なんかすんごい。
彼女は湯船に手を突っ込んで熱さを確認すると頷いていた。
「ちょっとぬるめにしておきました。一緒に入ろうか」
「えええ」
「恥ずかしくないって。私オートマトンだよ?生身の女でもご主人の歳なら許してくれますって」
「あっち向いてて!」
「はいはい」
すっかり彼女のペースだ。
静かな湯船。ぼくの息する音しか聞こえない。背中合わせで狭い。
「ご主人」
「え!?何!?」
「何でも言ってね。壊れるまでは守ってあげる」
「こわいよそれ」
背中越しの彼女は鼻歌を歌っていた。
しばらくすると、彼女は風呂から出た。もう少し入っていたかったけど、彼女に風呂から出るように言われタオルで全身を拭かれた。随分大切に扱われている気がする。
「一緒に寝よっか」
「いらないよそういうのは」
ベッドで添い寝する気満々のアゼリア。だけど断る。なんだかずっとこの人のペースなのも悔しい。
「寂しいなぁ。一人で寝るのは」
「え」
分かりやすく寂しそうな声。彼女は上目遣いでぼくを見てきた。
「寝てくれないかなぁ一緒に」
「う、うん」
「優しい〜♪」
がばりと抱きつかれてそのまま布団に包まれる。
「おっぱいきつい…」
「おっとごめんなさい」
彼女の体温は温かい。機械仕掛けの人形には見えない。でも吐息がかからないのは彼女がオートマトンだから。距離感に気をつけても、おっぱいが大きすぎて当たってる……
どうしよう……
「ほい」
「わ」
ぼくはアゼリアに抱き寄せられた。何これすごい。たゆんたゆん。
しばらくそのまま。ぼくの心臓の音だけが大きくなる。
「疲れたでしょ?色々させちゃったからね」
「………なんでぼくにこんなに構うのさ」
「そういう風にプログラムされてますからねぇ。あなたの父上から」
「じゃあ感情はないの?」
馬鹿みたいだ。ぼくだけが勝手にドキドキして。全部作り物なのに。
「感情の有無はわからないなぁ。人間がどう心を形作るかは人間自身が研究中だからね」
やっぱり。何もかも作り物なんだ。
「ただ、あなたの父上は亡くなるギリギリまで私を調整しつづけた。自分がいなくなった後に全てを託せるように。その思いは本物なんですよ」
「…………」
「真面目な空気は嫌ですね。おしまい。でもこれから退屈させないから安心してくださいな」
「うん……」
段々彼女の声が遠くなる。
「おやすみ…」
色の無かった毎日はいつの間にか彼女に塗りつぶされた。
距離感がやたらに近いのは気になるけど。ぼくは寂しさを感じる暇もないまま過ごした。
彼女はぼくを知り尽くしていた。
朝はパン派なこと。好きな色ははっきりした色なこと。パパ
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