3 変化

蒼い月が鮮やかな日だった。
「うっ…」
「ご主人様!?」
窓際で月を見ていたご主人様は口を押さえてうずくまった。とっさに駆け寄ると、何でもいいから容器を持ってきてほしいという。ぼくは大慌てで容器を持ってきた。すると、ご主人様はへたり込んで大量に戻した。胃液しかなかった。
「だ、大丈夫ですかッ!?」
ご主人様は肩で呼吸している。こんな姿初めてだった。不老不死の筈なのに、絶対大丈夫な筈なのに。なんとかご主人様が背中をさすってみる。かなり具合は悪そうだった。
「…はぁ…はぁ…はぁ………嘘」
ご主人様は下腹部をさすっている。
「お腹痛いのッ!?」
ご主人様は人間だった時身体が弱かったそうだ。もしかして吸血鬼になっても治らない病もあるのかも。それならぼくはどうすれば…!
「ご主人様っ、ぼくの血、ぼくの血吸ってくださいっ!少しは元気になるかも」
考えてみればご主人様とえっちする様になってから血をあまり吸われなくなった気がする。食事も忘れてベッドで日々を過ごして久しい。あっという間だった。吸血鬼のお姉さんとえっちしたら気持ち好くて、全てが満たされて、多分ご主人様もそれは同じだった筈で……
「出来ちゃったみたい」
「へ?できちゃったって?」
「赤ちゃん」
「ふぇ!?」
「私も驚いたわ。子供の頃教会で不死の魔物は子を産めないって聞いたんだけど……」
ご主人様は最初は息を整えていたが、段々笑顔になっていった。
「嬉しい……エミールとの…赤ちゃん……私のお腹に……っ」
お腹をさすっている声が涙でうわずっている。
しかし、一瞬間があいた。
「産んで良い?」
「な、何言ってるんですか」
「だってエミール、何も言ってくれないじゃない。ひょっとして…………嫌?」
「そ、そんな事無いですよ!実感が無いって言うか…」
「そうよね。えっちしはじめてからすぐだったもの。この計算で行くと、初夜で妊娠しちゃったって事になるかしら。調子に乗って虐めてる間にしっかり孕まされてたのね」
ご主人様を妊娠させてしまった。大丈夫だろうか。ぼくにご主人様の旦那さんとして、生まれてくる子のお父さんとして、振る舞えるだろうか。
「不安?」
「少し……ぼくご主人様に何もしてないし…何にも出来ないから」
「何も出来なくないわ。エミールのお陰で幸せなの。もっと胸張りなさい。………それに、私だって初めての妊娠よ。不安なのは同じ。それとも……お腹の子に私とられちゃうのを心配してるのかしら?」
図星だった。
「まあ、冗談だったのに。意外と独占欲が強いの?嬉しいわね」
身をかがめてわざわざぼくのおでこにキスをしてくれる。浅い金髪がふわりと肌に当たってくすぐったかった。








妊娠に伴った吐き気はつわりというらしい。ご主人様のつわりは酷く、頻繁に戻してしまうので、ベッドに寝てもらった。枕元に容器を置いて、吐き気が酷い時も食べられる果物や飲み物を用意した。
ご主人様が歩く時はいつも隣にいた。ご主人様が躓かない様に足元に気を配った。
「もう、過保護ね。吸血鬼の子だから死ぬ事は無いのに」
「駄目です。大切な赤ちゃんなんだから!」
ご主人様は微笑んでくれている。お腹を優しくさすりながらももう片方の手でつないでくれていた。



お嫁さんの身体を知る為に、屋敷の本棚で吸血鬼の事も可能な限り調べた。吸血鬼を研究した本があり、吸血鬼は陽の光で弱る事、純水が苦手な事も知った。そう言えばいつかぼくを狼から助けてくれた時も朝陽の下だった。あの時弱々しかったのはそういう事だったのか。つまり彼女は我が身を顧みず自分を助け出してくれたのだ。料理選択風呂全ての水が何やら甘い匂いがしたのもハーブが入っていたから。苦手な純水を扱う為か。知らない内にぼくはご主人様にかなり迷惑をかけていたのだ。ご主人様はぼくの事をとてもとても大切にしてくれていたんだ。
それなのにぼくはご主人様と気持ち好いえっちに夢中になってもっと大変な思いをさせているんだ。
家事も最初はたどたどしかったけれど、何とか覚えた。ご主人様は楽しみのひとつだからと結局一緒にする事が多かったけど。

お嫁さんと相談して、庭園の蒼い薔薇を街に売りに行ってもみた。綺麗な薔薇だし、少しでもお金にすれば育児にも役に立つと思ったから。最初はお嫁さんがかなり心配していたけれど、妊娠したお嫁さんを外に出す訳にもいかないし、ぼくだけで行く事を許してもらった。お嫁さんはひどく寂しそうで不安げだったけど、最後にぎゅっと抱きしめてくれた後おでこにキスしてから名残惜しそうに送り出してくれた。お嫁さんの魔力か、不思議な事に、ぼくは狼達からとても恐れられる様になり、問題無く街に行く事が出来た。
子供の売る不思議な蒼い薔薇はあっと言う間に売り切れ、苗を譲ってほしいという声やどうやってこの色を作り出
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