第九章 調査と露呈

マリアンヌさんにヒントをもらったぼくは、トモエ不在の不安をかき消すように魔物娘との共存の為準備し始めた。トモエが帰ってきた時に合法的に暮らせるように。
使用人たちにお願いし、レスカティエでトモエらしき人物を探してもらった。

マリアンヌさんの案を参考に、人間との共存が可能な者を厳しく選抜する法の草案を製作し、政治を担う宰相や役人達に魔物を受け入れるため法整備をすると伝えた。激しく反発する者もいたが、中にはひそかに魔物娘を何人も囲っていた者がおり、その者達の力添えで凄まじい速度で法整備の骨組ができていった。入ってきた魔物をある程度保護しつつ人間と魔物が互いに溶け込めるよう、国内で秘密裏に魔物を妻にしている者にお忍びで会いに行った。
「ラウラ、また来てくれたの?」
「お姉ちゃん!元気?」
ラウラのお姉さん夫婦とは妹を預かっている為にかなり頻繁に交流した。姉妹で楽しげに話しあう姿は微笑ましい。その裏でぼくとお姉さんの夫が話している。
「それで、具体的には何が一番ほしいのです?」
「妻がそのままの姿で外を歩ける様になればいい。とにかく魔物が安全で人に危害を加えない事を広めてほしい。俺以外にも魔物娘を妻にした男は皆そう思ってる」
「その方々とは交流できますか?」
「ああ。俺達は共通の秘密を持っている。それなりに助け合わなきゃやっていけんからな。連絡を入れておく」
やはりにかなりの数の魔物娘が人目を忍び生活しているらしかった。中には魔物であることを秘密にしながらも、魔物由来の能力で近所の方々と良好な関係を築いている者もおり、想像以上に魔物受入れの下地は出来ていた。
義姉夫婦から繋がる人脈から、魔物達へと交流は広がっていった。
サキュバスやエルフ等魔力が高くほぼ人型の種族は人間に変身して慎ましやかに夫と生活していて、例外なくとても幸せそうだった。
だが人外要素の多い異形種で変身魔法を覚えない者等の生活は不自由そうだった。夫との中は良好でも、自由に街へ繰り出せず買い出し等は全て夫任せ。夫への負担を考えると申し訳ないと切々と訴えてきた。
中には非合法と分かっていながら裏ルートで家畜扱いで仕入れた魔物娘で牧場を営む者も居た。ぼくが来てもホルスタウロスの種付けに夢中になっており、目のやり場に困った。
彼は逮捕処刑されるのではと真っ青になりつつも、愛する“家畜”の気持ち好さに止まれない。彼らに布団をかけ、背中を向けて事情を話した。
彼によればホルスタウロスはミルクの需要の高さから常に不足しており、非合法と分かっていながら取引はそこかしこで行われているらしい。魔物娘故に妊娠率も低く、中々流通しない分法外な値段で売買され、ホルスタウロス一頭を買うために生活を投げ出した男さえいるほどらしい。
他にも、性的な意味で“食肉用”、つまり肉奴隷としてオークも非常に人気が高いとか。地方役人や富裕層が戯れに買ってヤリ捨てるつもりが離れられなくなるケースが後を絶たない。
ワーシープはウールをとる為に買ったが毛刈りの時に組み敷かれ逆に彼女に逆らえなくなった夫もいた。
総じて魔物を妻にした夫は男性側が襲っているような感覚だった。魔物側よりも人間の男性側に自制を求めたほうがいいのかもしれない。魔物夫婦には3人以上子を作れば国外退去にする事を通知しつつ、国家非常時には人命救助等をする様お願いし、今後法整備を進めると約束した。



そしてぼくは決断をする。魔物受入れの王令を出そう、と。
執事長アレックスは反対した。レスカティエは今色めき立っている。そんな状況で反魔物の流れに逆らうのは危険すぎると。だがぼくは頑として諦めなかった。先駆けにマリアンヌさんがいる事、もはや魔物を拒絶するだけでは進歩できない事を告げ、何とか説得した。
「もはや時代の流れです。逆にいえば、これだけ魔物がいても国が乱れていないのですよ。反魔物思想を貫いても、レスカティエ勢力は衰えています。レスカティエの傘がいつまで意味を持つかはわからないし、レスカティエが倒れた時、無秩序に魔物が入って来た時の方が恐ろしいのではないでしょうか」
「…確かに一理あります」
「そうなる前に人間に友好的で理性のある魔物勢力を味方につけ、レスカティエと対等以上の関係を目指す事が重要だと思います」
アレックスは人を魔物に対して優位にする事、国家の安全確保のため同盟国の候補を探す事、人間人口を維持する為の法整備を条件に、のんでくれた。





公共広場で、正装で王令を発布した。
「魔物を受け入れようと思います」
広場の高台で、集まって来た民衆を前にはっきりと告げる。
どよめく観衆。不安そうな顔になる者や、怒号も聞こえ始める。
「無論、この国の民衆が第一です。無秩序に国に魔物を流れこませるつもりはございません。国家基準を設け、これを満た
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