第二章 社交界にて

ぼくは王宮にある見張り塔で結界を張り直していた。何人もの魔族が既に入り込んだらしい。再び張り直してもうこれ以上入って来ない様にしなくては。
「また来たか……」
朝から上空にはサキュバスが数人偵察に来ていた。魔法で威嚇射撃。なるべく手荒な真似はしたくない。サキュバスは自分すれすれに放たれた魔法を警戒して飛び去った。
ぼくが姉上の影武者になれたのは見た目だけが理由ではない。この国の王族に必須の魔法が使えるのも理由の一つ。結界魔法や治療、火力戦用。この国は本来、王族が張った結界で魔物が侵入できない筈だった。だが先日ゴブリン少女の口から魔族が入ってきていると聞いた。念入りに威嚇砲撃を行う。
もしもの時は姫が砲台となり国家の為に戦う。それが見込まれたからこそレスカティエと同盟を結び、魔族との防衛線として使われているのだ。
幸いにしてまだぼくは大規模な戦争を経験していないし魔物を殺した事もない。魔物はみんな女の子の姿をしているし、乱暴に扱いたくはない。
彼女達も王族の魔力を恐れて帰国してはくれないだろうか。



見張り塔から降りると、ゴブリンのラウラが飛びついてくる。
「勉強疲れた…」
「あらあら、お疲れ様」
最近は連日読み書きを使用人から教わり、自分の部屋も与えられている。だが一人で寝る事を怖がり、結局毎晩ぼくの部屋に潜り込んでくる。甘えたがりの妹が出来たみたいで微笑ましい気もするけど、性別を偽っているので気が気ではない。
「サラ、この後お仕事なのか?」
「そうね。社交界も大事なお仕事ね」
「……待ってる。がんばってな」
少し寂しそうに自分の部屋に引っ込む。社交界が終わったらすぐ戻った方がよさそうだな。


社交界。
周辺の王族や貴族を招き食事しつつ楽しく過ごす。だが食事の席での話は貴重な情報源となる。隣国の後継者問題や情勢、政策、はては将来の結婚相手まで探す場所だ。
そういえば遺言には姫として振る舞えと書いてあったけれど、世継ぎはどうするんだろう。まさか姫に姫が求婚する訳にも…
とにかく今は目の前の事に集中しよう。


「おはようございます」
「流石は…王家の至宝だわ」
「麗しい方」
社交場に出ると周りから隣国の姫君が集まってくる。
反面王子や侯爵たちはなぜか赤面して固まっている。やばい、男だとばれた…!?
目立たない様に端に引っ込んでいた方がいいかも。
「さ、サラ様…でよろしいかな」
「は、はいっ!?」
姫様方に囲まれたぼくに中年男性が声をかけてきた。がっちりした体型で、渋い顔立ちの紳士。立派で上品な出で立ちからするに伯爵だろうか。
「わたしはシャルル。失礼を重々承知で。私と一杯いかがか」
な、軟派って奴ですか。男とばれてなくてよかった。
……よかったのかなこれは。
どうしよう。下手に断って彼のプライドを傷付けたら気の毒だし、かといって適当に話を合わせてボロが出たら大変。
「あ、わたしはまだお酒の飲める年ではございませんの。お気持ちはありがたいのですが、またいつか」
「そうか……お話だけでもしていかないかね」
「ぁ、殿方とお話するのは少し恥かしくて……」
紳士的な口ぶりだが結構強引。尚も引き止めようとするシャルル氏。
困った。どうやって切り上げよう。相手を傷付けないようにするには……
「あらぁ、こんな所にいはったん?もぅ、親友ほっぽってイケズさんやわぁ」

突然声をかけて来たのは、ジパング風の派手な紫色のドレスを纏った黒髪の女性。穏やかそうな童顔に不釣り合いな凶悪な胸をゆらして。大っきい……
伯爵もその大きさに少し引き気味。ここまで大きいと、人を選ぶのかも。
「サラさん、少し風に当たりに行きません?」
「あ、そうですね。いつも待たせちゃってごめんなさい」
話を合わせて庭へ逃げ出る。主催者の立場なのに情けない。姉上はよくこんなもの頻繁に開けたなぁ。改めて姉の大きさを知る。
……ひょっとしたらただ遊びたいだけだったのかもしれないけれど。



「助かりました。えっと、どちら様でしょうか?ジパングのお姫様とお見受けいたしいますが」
「くす♪固ならんといて?うち巴いいますぅ。よろしゅぅおねがいしますぅ」
にこやかに話すお姫様。何か不思議な訛りとゆったりとした口調。彼女の周りだけ別世界の様な。そういえばジパングの女性は穏やかで献身的な方が多いと聞く。このゆったりとした雰囲気はその風情によるものだろうか。
「本当にありがとうございます。無下にも断れなくて困っておりましたから」
「うちはそない良い人じゃありません。お話し相手がほしかったんです。ほら、うち日ノ本……あら、こちらではジパング…であってますぅ?……から来たでしょう?中々解けこめませんで……」
このマイペースな姫君は極東の島国ジパングから遥々人生勉強を兼ねて社交界に出席したらしい。ジパ
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