「どうなさいました?」
「あぁ…!?なんだ、お姫様か…」
話しかけた果物露店の店主はいかにも不機嫌そう。厳つい腕で小柄な赤毛の少女を摘み上げたまま鋭い眼光を向ける。人だかりはたった一人の店主に気圧される。それまで楽しげだったのに押し黙ってしまう。使用人達は静かに、かつ出過ぎずいつでも護衛できる体勢となった。
やばい……余計な事に首を突っ込んでしまったみたい…
「…この小娘がリンゴを盗みやがったんだよ」
「ちげーよ!金は後で払うからさっ」
摘み上げられた少女はパタパタと手を振りまわす。短い手足は男に届かない。
………この子は……
「申し訳ございませんでした。代金は私が払います。その子は私の知り合いなの。以後しない様にきつく言い聞かせますわ」
「あぁ、そうかぃ」
深々と頭を下げ代金を払うと、店主は自分もやり過ぎたと詫びてきた。
そのままでは迷惑を掛けただけなので、自分もリンゴを数個買っていった。
周りの視線が痛かったが、赤毛の子を馬車に連れ込んだ。この子は人間ではない。身体から魔力が漏れている。厄介な事になりそうだ。
「さっきはありがと…ったく、あのおっさん、あれだけ果物あるなら少しくらい分けてくれても良いじゃんよぉ…」
リンゴを丸かじりしつつぼやく女の子。
「あなた、御家族は?」
「っいねーよ」
警戒する赤毛の少女。頬には汚れが目立つが、綺麗にすれば可愛い子。擦り切れだらけの身形から察するに彼女は嘘はついていない。
ここは反魔物レスカティエの威光が届く小国。もし身寄りのない魔物の子だとばれれば生きるのは困難だろう。何よりなぜ魔物が堂々と人間にまぎれているのか気になる。
「貴女に聞きたい事があるの。少しよろしいかしら?」
「…いいけど」
ボーイッシュな女の子にやんわり語りかける。少しでも警戒を解く為出来るだけ笑顔で。
拒絶されたらどうしようかと思ったけど、警戒しつつも許してくれた。
「サラ様……いくら王族でも市民を拉致するのは如何なものかと」
明らかに怪訝な顔で馬車を覗くのは執事長のアレックス。そうだ、使用人達にどう言い訳するか考えてなかった。これじゃ誘拐犯じゃないか。落ち着け、姉上ならこういう時どういって執事を言いくるめる?
「少しお話を聞くだけですよ。この子みたいな子がどんな暮らしをしているのか。民の暮らしに耳を傾けるのも姫の役目」
「ッッ!!流石はサラ様…!感服いたしました!馬車を!」
苦しい出まかせを大真面目に信じ、アレックスは感涙に打ち震えつつ家路についた。
この様子だと姉上が悪い人だったら国が滅んでたんじゃないかな…
使用人達に適当に言い訳して部屋から立ち退かせ、入って来ない様に言いつける。
「驚かせちゃってごめんなさいね」
「あ…うん別にいい」
辺りを見回す赤毛の少女。目をきらめかせ落ち着かない様子。見知らぬ者に王宮に連れ去られ、警戒半分嬉しさ半分らしい。
「まず、盗みはいけませんよ?あれはあの方達の大切な売り物なの。いいですね?」
「………はぁい」
「どうしてもお腹がすいたら、孤児院に行くといいわ。あそこなら食事と住む場所をくださいますから」
「…うん」
なるべく穏やかな口調で叱る。見ず知らずの人にいきなり連れて来られて叱られるのは気分が悪いだろうから。目線を同じ高さにして見つめて諭すと、存外素直に反省してくれた。
「後に行ってもいいかしら?」
「うん…ふあ…?」
警戒を解かせ、接近して魔力を調べる為にベッドの上に座らせ、後ろから軽く髪を梳かす。
露出の激しい民族衣装と血色のいい肌。乱れた髪と煤汚れ以外は健康体で、とても貧民街の子には見えない。そして身体に漂う魔力。
「女の子なんだから髪は可愛くね。勿体ないですよ」
乱れた赤毛を優しく梳かして整える。やはり魔力が漂って来る。ここまで近付けばこの魔力が「ゴブリン族」のものだと分る。
「あ、お姉さんっ、ちょっと恥ずかしい…ぜ…」
ボーイッシュな女の子だったが、髪を整えればいかにも女の子らしい。
「よし、出来た。ふふ、可愛い」
「え…本当?」
振りかえって目を輝かす小柄な女の子。心根は純朴そのもの。頬を撫でると更に嬉しそう。
「…貴女ゴブリンね。上手く人間の女の子に化けてるようだけど、もう少し注意深く動いた方がいいわ」
「……!お姉さんまさか…!?」
身構えるゴブリンの少女。魔物娘が正体を看破された時は、酷い目にあうか、男性に口説かれる時だけ。身の危険を感じるのも無理はない。
「落ち着きなさい?酷い事はしないから。お節介だけど、独りで居るあなたを見て心配になったの」
震える女の子を包み込み、さすってなだめる。子供の頃自分がされたかった事をイメージしながら、穏やかに笑って。ゴブリンは落ち着いてくれた。
「私の名前はサラ。貴女は?」
「サラ…っ!?それじゃあお姉
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