レスカティエ教国が陥落してから二年が経つ。
大きな希望を失った人々の心はまだ癒えてはいない。
しかし、一方では彼の国に成り代わって人類の新たな希望になろうとしている国があった。
反魔物国家「イスパーダ」―――
規模はレスカティエどころかそこらの国よりも小さい小国家であった。
教団の力は強いものの、経済力も所持する軍隊も小規模で人類の希望となるには程遠い。
しかし、国民は誰もがこの国こそが人類の新たな希望であると信じていた。
その理由がこの国には存在していた。
「皆、集まったか?」
幕舎の円卓に腰を掛けている面々に向かって、毅然として少女が言った。
「えーと、いつも通りヴィゴーレ以外は集まっています」
「またあいつか」
幕舎のあちらこちらからクスクスと笑い声が漏れた。
「私が呼んで来るから皆は先に始めててくれ」
「お待ち下さい!」
少女が幕舎から出ようとすると円卓を力強く叩いて男が呼び止めた。
「いつも申し上げておりますが、フォルティス様がわざわざ足を運ばれることはありません。あの男は我ら高潔たる聖騎士団の汚点です!本来はここにいてはならない輩なんですぞ!」
少し面倒に思いながらフォルティスは興奮している男に言葉を返した。
「いてはならないと言うが、あいつも私達と同じ主の加護を受けた勇者だ。ここにいる資格はあると思うが?」
「怪しいものですな。これから魔物討伐の軍議を始めるというのに毎回あの男は遅れてくるか欠席する。他にも規律を破ることなど日常茶飯事、とても主が認めた者とは思えませぬ」
「でも力は本物だ。いいから先に始めててくれ」
「あなた様はあの男に甘すぎますぞ!」
男に構わずフォルティスは幕舎を出て行った。
フォルティス・ノービリス―――
良家ノービリス家の一人娘、年齢十九歳。
剣術と馬術に秀でた才能を持ち、幼き頃より教団や周りの人々から将来有望な使徒になると期待されて大事に育てられてきた。
そして、一年前に勇者として目覚めた彼女はその才能もあって、同じ勇者である他の者達とも桁違いの力を持つようになった。
近隣の親魔物国家からの侵攻に対して苦戦を続けたイスパーダの軍隊であったが、彼女が戦場へ出るようになってからは戦局が一変した。
連戦連勝、愛馬に跨り颯爽と戦場を駆け抜け、剣を振れば敵は次々と切り払われる。
指揮を執れば、兵達を手足のように使いこなして兵力差を覆す大勝を上げる。
そんな彼女を国民や他の勇者達は「イスパーダの英雄」、「イスパーダのウィルマリナ」、「常勝の女神」と持てはやし、人類の新たな希望であると強く信じるようになった。
「ここにいたのか」
フォルティスは草原に仰向けで寝転がる男を見つけて声を掛けた。
しかし、男は目を少し開けたが彼女に僅かに視線を向けて再び目を閉じた。
「軍議が始まっているのだが」
「知らん。勝手にやって後で具体的なことを教えてくれ」
もし、ここに教団やイスパーダの国民がいたら、国の英雄たる彼女に無礼な口をきいたこの男を間違いなく怒鳴りつけているだろう。
しかし、フォルティスはクスリと微笑んで男の横に腰を下ろした。
「ナビールがまた御冠だったぞ。たまにはちゃんと出席したらどうだ?」
「ふん、俺はああいう堅苦しいのが嫌いなんでな」
「それではここで私と今回の魔物討伐について話し合おうか。今回はどう動くべきだと思う?」
「敵に近いて薙ぎ払う」
「具体的にどう近づいていくんだ?」
「どうもへったくれもない。見える敵は全て薙ぎ払う、ただそれだけだ」
「ぷっ」
男の単純な返答にフォルティスは吹き出してしまった。
「お前らしいな。うん、本当にお前らしいよ」
「難しいことはそっちで考えろ。俺を当てにするな」
「いや、ヴィゴーレ。やっぱりお前は頼もしいよ」
傍で聞いていれば考えのないただの猪武者な男だと思えるが、フォルティスは
ヴィゴーレが本当に頼もしい男だと思った。
それは、彼にはそれだけの実力があったからだ。
ヴィゴーレ―――
フォルティスが勇者として目覚めてから二ヵ月後にイスパーダに来た流れ者。
出身不明、年齢二十一歳。
聖騎士団の一兵士として戦場へ参加していたが、初陣から凄まじい戦いっぷりで他の兵士達や教団幹部、そしてフォルティスの目にも留まった。
何が凄まじいかというと、大の大人が両手でやっと振り回す大剣を片手で軽々振り回して敵をまとめて薙ぎ払う姿である。
後に教団の調べで彼は主神の加護を受けた勇者であることが判明した。
彼にはすぐにフォルティスの仲間として相応しい地位を与えられた。
しかし、傍若無人な振る舞いのためナビールのような一部の勇者や教団から本当に勇者であるのか疑念の目で見られていた。
五日後―――
親魔物国家からの侵攻を見事退けてフ
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