ブルジョワーズの南にある小国ウェースト。王国とは長年、同盟関係と共に盛んな貿易が行われ良好な国交関係を結んでいた。
内陸に湖を多く有するウェーストからは魚介類の数々と特産品である、ウンディーネが作った魔法の込められた芸術品を。農牧業の盛んな王国からは食肉や乳製品、野菜等を送り合い互いに補い合う、持ちつ持たれつの関係を築いていた。
その平和を破ったのは他ならぬ教団の侵攻だった。
彼らは、ウンディーネの他にも多くの野生の魔物と共生するウェースト異端国家とし、隣国である王国に討伐命令を出した。当初は要求を断った王国だが、再三に渡る脅しに屈し遂に隣国への宣戦布告をした。しかし、その文の中に魔王軍へと協力を求めよとのメッセージを込めていた。
そのため、ウェーストは早急に魔王軍へと連絡を取り彼女らに統治を任せる代わりに教団の侵攻を食い止めてもらえるように取計らった。
魔王軍は即座に対応し、ウェーストと王国の国境には3万を超える魔物の大軍が配置された。王国にこれを打ち破る力などあるはずもなく、教団にしても辺境の地にそこまで戦力を割くわけにもいかず、両国間での戦争はひとまず回避された。
しかし、ことをしくじった王国に対して教団は制裁と称して植民地化を進めた。
当然のことながら王家はこれに反発、早々に教団への批判を行った。しかしこれを受けた教団上層部は王家を異端と糾弾し、民衆の面前で処刑を行った。こうして王家の中で唯一の生き残りとなったナヴィル王子を新たな王に据えて新国家ナヴィル王国を立ち上げた教団は同国の実質的な支配を敢行、民衆は搾取される日々を送ることになった。
一方、親魔物国家となったウェーストは教団に踏みにじられた隣国の惨状に大いに怒り、ウェーストの駐留指揮官であり総督であるリリムに懇願しかの国を救う術を模索していた。
そんな時に起こったのが、教団が派遣した遠征軍による魔物掃討作戦。急遽決まったこと作戦は一説によれば教団内において一勢力を築く大司教ゲロン・バルハザークによる独断であるとのことだ。
いずれにせよ、この事態を重く見たリリムは早急にナヴィル王国侵攻軍を編成、すぐにでも遠征軍と戦う準備を整えていた。
しかし、そのあとに入ったのは遠征軍による反乱で落城したブルジョワーズの情報だった。その陰には『教団狩り』なる謎の組織があり彼らの手引きにより遠征軍は彼らとの同盟軍を結成、教団へ反旗を翻したとのことだった。
完全に出鼻を挫かれ、複雑な相関図を形成した王国内部の状況を鑑みてリリムは侵攻作戦を中止。情報収集に勤めていた。
そこに来た俺たちの亡命の話だ。
リリムは事態の中心を動き回っていた俺たちとの会談を決意、俺たちを王城跡である総督府に招いた。これが道中にエルナルドから聞き出した情報の全てだ。
会談とか初耳なんすけど。
「おお、それでどうなったのだ!?」
「うふふ〜、もうダメと思ったその時にね?なんと私の可愛い妹ミルラちゃんが奇襲を仕掛けて見事忌々しいあの掃溜クソ野郎をぶちのめしたの!」
「おぉ!!」
「お、お姉ちゃん!私、ぶちのめしてないよ!?一回だけこつん、てやっただけだよ!?」
頭を抱える俺をよそに、3人娘は先日の強敵の戦いの話で盛り上がっていた。
おい、エルナルド!お前の主人の話だぞ!リリムだぞ!?そんなのと会談しなきゃなんない俺の身になれよ!
それとミルラ!あの一撃は決して「こつん。」て感じじゃなかったからな!ガツン!とかドカン!!て感じだったからな!無理に可愛い話にしようとするな!!
あぁ…こんな面子を引き連れて、あの魔王の娘に会わなきゃならんのか。前途多難だな、おい!
嘆き虚しく、馬車は首都郊外まで到達していた。窓の外に目をやれば遠くに細長く先の尖った高い塔が見える。その周りにはやや背の低い塔が点在していた。
やがて、その下に美しい街並みが見えてくる。
首都ウェーストウェーブだ。街の外が湖になっていてそれを波をイメージした独特の城壁が阻んでいる。
実に美しい情景だ。こんな状況じゃなきゃ俺もはしゃいでたろうなぁ。
「お姉ちゃん!すごいよ!水がいっぱいある!」
「あらそうねぇ、やっぱり何度見ても美しい場所だわ〜。」
年相応にはしゃぐミルラを見て、エルナルドが誇らしげに胸を張っている。それらを眺めてカミラさんが微笑ましそうにー
「いやお前ら!俺たちはこれからリリムに会いに行くんだぞ!?なんでそんな呑気なんだよ!」
緊張感の欠片も感じられん!こんなに俺が悩んでいるのにぃ…けしからん!
「でも旦那様、すっごい綺麗ですよ!」
「そうだぞ。偶には芸術を眺めて心を休めるのも騎士たる者の…いや、戦士の勤めだ。」
「ちょっと待て!なんでちゃっかり馴染んでんだよエルナルド!お前はリリム側だろ!
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