それからしばらく走って、町から十分に離れたと判断した俺は森の中で魔物の少女を降ろした。

「よっと…大丈夫か?」

「うぐ…!」

おっと、まだ腹の傷治してなかったのかよ!?幸い、それほど時間は経っていなかったから良かったがもう少し遅れていたら死んでたかもしれん。

「ご、ごめんな!今治す!」

俺は慌てて治療魔法をかけて傷を修復する。

「あ…す、すごい。」

見る見るうちに塞がっていく自分の傷を見て驚く少女。このくらいなら誰でもできると思うのだが。

「お前のとこには治療魔法使える奴いなかったのか?」

俺の問いにコクリと頷き返した少女。

どんだけの田舎だよそれ。
だが、これでこの娘が魔王軍でないことがほぼ確定となった。
一応、彼女に確認してみたがやはりこの周辺に住む野良の魔物らしい。

つまり城に囚われているのは一般市民ということだ。

「まあ、戦争してんだから普通っちゃ普通なのか。」

考えてみれば人間同士の争いでもこういうことはよくある。遠くの国に遠征に行ったりすると食糧とかいろいろ足りなくなるから現地の村とか街から略奪するのだ。騎行戦術とかそういうやつだ。

「普通だとしても、俺は許せないけどな。」

そもそも遠い国まで遠征させるなよ、って話だ。そこまでして戦争がしたいやつらの考えが分からない。所詮は俺も庶民だ、お偉方のお考えは理解できないよ。

「さて、無駄な考えはやめにしてこれからを考えないとな。」

ぶっちゃけバカなことをしたと後悔している俺だが、自然と嫌な気分にはならなかった。…まあ、ただの自己満足に過ぎない行いなんだろうけど。
それでも、嫌じゃない。寧ろ清々しい。

「あ、あの…!」

「ん?」

1人ごちていると少女が緊張した面持ちで声をかけてきた。

「た、助けてくれて…どうもありがとうございます!」

ぺこりと頭を下げる魔物の少女。その姿が妙に可愛らしい。いや、美少女なのは知ってたが、こんなに魅力的だったか?
どうにも魔物のフェロモンにやられかけている自分がいる。

「あー…礼はいい。これもきっと俺の自尊心を満たすためにやったことだから。」

「?」

いきなり何言ってんだこいつ、的な感じに小首を傾げる少女。まあそうなるよな。もし俺が同じようなことを言われたら引く。

「すまん、ちょっと俺の中でも整理ができてないんだ。…それよりも、一応自己紹介とかしておくか。」

今更だが、聞いておきたい。いつまでも少女ではなんか扱いづらい。

「あ、私はミルラって言います。ブルジョワーズの近くの森でお姉ちゃんと一緒に暮らしてました。」

「俺はケイン・ミルゲル、元・教団兵だ。」

教団と聞いてびくりと肩を震わせるミルラ。ああ、迂闊だったな。おそらく彼女の中で教団というのはトラウマにでもなっているんだろう。

「生まれは西の大陸の神聖帝国だ。…と言っても田舎だけどな。」

「私と同じ、ですね。ふふ。」

「違いねぇ。」

似たような生まれと知って2人して笑みをこぼす。
ついさっき戦った相手なのになんだか親近感が湧いてくるから不思議だ。田舎もん同士は仲良くなれちゃうのだろうか。

「…まあ、ここで立ち話もなんだ。ひとまずは隠れる場所を探そう。」

「それならいいとこがあります、付いてきて!」

と、ミルラは森の中を走り出してしまった。慌てて後を追いかける。
意外に足の速いミルラは短い足を小刻みに動かしながらスルスルと木々の間を抜けていく。

そうして辿り着いたのは洞窟だ。森の奥にあって、入り口も蔦で覆われているから一目見ただけでは気づかない。周りの崖はもれなく蔦だらけでピンポイントで洞窟の入り口を見つけるのは実質不可能だ。

「なかなかいい場所だな。」

「はい、ここでならしばらくは保ちます。」

「そうだな、とりあえず入るか。」

そう言ってミルラに案内してもらって中に入る。

おお、洞窟内とは思えない内装だなおい。壁掛けとかカーテンとか椅子とか机とか…いろいろコーディネートされてて住みやすそうだ。

「ベッドは一つしかないのでケイン様がお使いください。」

「いや、それはダメだろ。ミルラが使え。」

「いえいえ、ここはケイン様が。」

「いやいやミルラが。」

かれこれ10回近くこの問答を繰り返してなんとかミルラに譲る。彼女は不服そうだったがまさか女の子を地面に寝かせて自分だけベッドというわけにもいくまい。まあ、絨毯が敷かれているからモフモフしてるけど、やっぱり床ということに変わりない。

「今、お茶淹れますね。」

お茶とかあるのかよ…家だなこれ。

ミルラが淹れてくれた紅茶をいただき一息ついてから今後について話し合いを始めた。

「さて、じゃあ今後の予定を決めようか。」

「はい、ケイン様。」

俺は今、ミ
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