上編

その日も、唸るような雨の日だった。

薬の調合の為近くの森に薬草を採りに行っていた私は、突然の雨に見舞われ大急ぎで家路についた。その道中で、ある不思議なものを見つける。
土砂降りの雨で糠るんだ地面に横たわる人型の塊、それは傷だらけの人間の男だった。

「な、なんでこんなとこに人間が!?…いや、それよりもこの傷、早く治療しないと手遅れになるわ。とりあえず家まで運ばないと!」

何故ここに人間がいるのかという疑問は確かにあったが、それよりもこの怪我人を早く家まで運ぼうと考えた私は、慌てて男を担ぎ上げ家まで走った。









「…これで一命は取り留めたようね。後は包帯を巻いて経過を見るだけね。」

巨大な大樹の中、くり抜いた空間にセレナはいた。くり抜いたとはいえ生活するのに不自由ないように加工されている。窓もちゃんとある。薬を置く台もあるほどだ。

薬師をしていた私は、家に置いてあった外傷に効く薬をありったけ男に塗りたくった。…まあ、他の同業者から見れば量が多すぎたかも知れないがおそらく大丈夫だろう。私の感がそう告げている。

「それにしても…この男は何者なのかしら?鎧を着ている事からして何処かの騎士なのは分かるけど…」

治療を終え、一息ついていたセレナはふと、自分のベッドに寝かせてある男を見る。

「…」

「…あらためて見ると、なかなかカッコイイ顔してるじゃない。」

凛々しくも美しい顔立ちにスッと伸びた鼻、男としてはかなりの美形に入る顔立ちにセレナは思わず魅入ってしまう。ただでさえ人里離れたこの森で、しかも木の家に住んでる彼女にとって人付き合いと呼べるのは、月に数回薬を買い取りにくる刑部狸のアカネとの談笑のみであり、ましてや人間との触れ合いの場は皆無に等しかった。
そんなセレナでさえも、美形と断言できる程のイケメンが今、自分のベッドで寝ているこの状況は、一応魔物であるセレナにとって興奮せざるを得ないものであった。

「…って、何考えてるの私!?出会ったばかりの男に発情するわけないじゃない!」

思わず出た心の声に自分で恥ずかしくなったセレナは必死で否定の言葉を探す。
しばらくあたふたして、今、自分とベッドで眠る男以外この場に居ない事を思い出して安堵の溜め息を吐く。

「…まったく、1人で何やってんだか。私以外にこの森には魔物も人間も居ないのに。」

再び溜め息を吐いた後、近くの椅子に腰掛けベッドの男に目を向けた。

「…ほんと、あんた何者なのよ。」

「う…うぅ…」

「っ!!」

何の気なしに見た男は突然呻き声を上げてモゾモゾと動き出した。瞼がゆっくりと持ち上がり虚ろな目が横であたふたしているセレナを捉えた。

「?…お、女の子…」

「!目が…覚めたの?」

…目が覚める?…ああ、そうか。俺は確かヴルスラの戦闘でー

「っ!ぐぅ…!?あ、頭が…!」

そこまで思い出して、突然頭部に激しい痛みを感じた男は、頭に手を当て呻きながら必死に痛みに耐える。
その様子を見てセレナが心配そうな顔で、男に横になるように促した。

「ちょっ!無理しちゃだめっ!今は横になって、安静にしてなさい。」

「…すまない…」

「…あやまることじゃないわ。私が勝手に助けただけだし…ただ、自分が助けた人に死なれたりしたら後味が悪いから…」

「そうか、ありがとう…」

「べ、別にお礼言われる事じゃないわ!言ったでしょ、私が勝手に助けただけだって。」

「でも、ありがとう……ところで、君は一体何者なんだい?…その下半身からして、魔物なのは確かだろうが…」

目覚めたばかりな上に記憶に多少の混乱が見える男は、今の自分のおかれている状況の把握を求めた。
そこで、とりあえず自分を助けてくれたと思しきこの少女の正体を尋ねる事にした。

「…驚かないのね。この身体を見ても。」

しかし、少女の方も下半身が蛇という異様な姿の彼女を見ても何ら動じる事なく話しかけてくる彼に違和感を覚えていた。それはひとえに、今迄会ってきた人間達に化け物扱いされてきたからだろう。だが彼女も自分が異形の存在である事は認識していたのであまり気にせずに生きてきた。…いや、そうせざるを得なかったとも言える。そうしなければ心が耐えられないから。
だから尚更気になったのだ。彼の落ち着きぶりに。今迄人間に向けられた事のない何の敵意もない純粋な視線に。

「君が魔物だってことにかい?…まあ、あまり気にはならないかな。国の中にも普通に居たし見慣れてないわけじゃないから。」

「…ふーん、あっそ。」

…見慣れてる、ね。まあ、それなら驚かないのも無理はないか。


「…それで、君は何者なんだ?」

「…別に、誰だっていいでしょ。」

「名前だけでも教えてもらわなければ呼ぶ時に困るのだが…」

「名
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