天譴

「ふふふ…遂に見つけたわ。私のお宝ちゃん!」

リベラは天上にぶら下がりながら、大きなダイヤをうっとり眺めていた。
辺りは薄暗い。大きく開け放たれた窓から月の光りが差し込み、暗闇に包まれたこの部屋全体を照らしているのだ。
ある程度広いこの部屋には、ある程度裕福そうな人物が寝ているベッドと、ある程度の価値の装飾がなされている。

「まさか、こんな中流階級の屋敷に隠してあるなんてね。…所詮、あんたがたには、相応しくない代物さ。」

リベラ辺りを見回した後、吐き捨てる様に言った。

「…これ以上は、何もないみたいね。…とすれば、さっさとずらかる事にしますか。」

既に物色を済ませていたリベラは、早急にこの場から立ち去ろうと侵入してきた窓から外へと飛び出した。そして中庭に降り立ったところで…

「何者だ貴様っ
#8252;」

「…やばっ!」

運の悪いことに見回りに来た衛兵に見つかってしまった。

「賊が侵入したぞぉぉぉ
#8252;」

迅速に仲間へ大声で伝達する衛兵。声に導かれ続々とこちらへと駆けてくる音が増えてくる。
リベラは急いで駆け出した。敷地の端まで来て、高く聳え立つ塀を恐るべき跳躍力で飛び越える。人間には成せない技だ。無論、彼女は人間ではない。いや正確には半人だ。
彼女はダンピールであった。本来、人間とヴァンパイアの間に産まれるのはヴァンパイアである。だが、稀に両者の混血種として突然変異的に産まれるのがダンピールだ。人間とヴァンパイアの子がダンピールであるのは旧時代においては一般的であった。しかし今日の魔界事情において、ダンピールが産まれるのは非常に珍しい。
彼女達は、限りなく人間に近い姿をしているが故によく人里に紛れ込んで生活している。その中で、まるで人間の様に恋をして、結婚していくのだ。
リベラもその1人だった。気になる男性こそ居ないものの、今の怪盗としての生活に多いに満足していた。

「…にゅふふふふ、これを売れば、また暫くは遊んで暮らせるわね〜。」

リベラは手元の大きなダイヤを見て、うっとりしながら今後の予定を立てていた。
先程の屋敷からは、数十m離れた木の上に乗って、脚をブラつかせている。
黒のハットに、黒のマントを羽織ったその姿は正に怪盗と呼ぶに相応しく、その瞳は妖しく赤い光を放っていた。

「今度はどこ行こうかなぁ、レスカティエはもう行ったし、王魔界は…あそこのヴァンパイア達、なんか気に入らないし〜。…う〜ん、迷うなぁ。」

すると、不意に下から声が聞こえた。

「いたぞー
#8252;この木の上だ
#8252;」

「えっ
#8265;もう見つかっちゃった
#8265;」

衛兵の声に、リベラは慌てて木の上から飛び去り、並木の上は渡り歩いていく。
衛兵達もそれを追ってまた1人、また1人と合流していく。

「うわわわ!まずいまずい…!」

いつの間にか、その数は三桁に届くところまできていた。
その中の1人、弓兵がリベラに向けて矢を放った。それは見事にリベラの左肩を射抜いた。

「うぐっ
#8265;」

その衝撃で、地面へと落下していく。そして芝生の上に落ちる。
それを確認して衛兵達は一斉にリベラの周囲を囲む。至って迅速な対応である。
一瞬にして逃げ場を失ってしまった。衛兵の1人が歩み出て剣を向ける。

「大人しく投降しろ。そうすれば、俺たちの性処理係として扱ってやってもいいぜ。…へへへ。」

「下卑た笑みね。主が醜ければ、家来も醜いということかしら。貴方達、今この世で最も汚い顔してるわよ。」

「なっなんだと!言わせておけば…
#8252;」

男が言い終わる前に、リベラは再び跳躍した。驚きで目を丸くした衛兵達の上を優雅に飛んでいく。

「アディオス、豚ちゃん達!」

着地後、捨て台詞を残すと腰の小さなバッグから取り出した玉を衛兵に向かって放り投げた。
ぼふん!という爆発音と共に、ピンクの煙幕がモクモクと立ち込め、一瞬にして衛兵達を包み込んだ。

「ぐぁ!くそっ!煙幕か
#8265;」

「うぉ!目に染みる…!」

煙が晴れる頃には、リベラの姿は跡形も無く消えていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「…ハァ…ハァ…まさか毒が塗ってあるとは思わなかったわ…」

あの一本の矢に塗りたくってあったのは『ヒュドラの毒』と呼ばれるものだった。この毒は、血液中に入ってから僅か数分でしに至る程の猛毒性から、かの半人半馬の賢者を死に至らしめた伝説の怪物ヒュドラの毒、と呼ばれていた。
魔物であるリベラの生命力で、今はなんとか抑えているが恐らくそう長くは持たない。
リベラは身体中の痺れと吐き気に耐えつつ、ふらふらと真っ暗な山道を歩いていたが、やがてその場に力無く倒れ込む。

「…あはは…もう、力…入んない
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