反骨の勇者オルダン

運命に抗え。

この言葉は俺が世界で一番嫌っている言葉だ。



人は困難に直面したとき、必ずと言っていいほどこの台詞をほざく。
死の運命、別離の運命、挫折の運命…そして裏切りの運命。いずれにしても、人間は先の言葉でそれらを否定し、受け入れず、何とかして打開策を見出そうとする。たとえそれが逃れ得ない運命だとしても。


運命は自分で掴み取るものだ。

そう言う人もいる。なるほど、一理ある。


だが、それは所詮は運命を受け入れられない弱者の言い訳であり、その日を先延ばしにする時間稼ぎでしかない。そういう奴に限って結局は運命に飲み込まれて凄惨な最期を迎えるのだ。


敢えて言わせてもらう。運命からは逃れられないと。
















「…今日から転属か。今度は熱心過ぎる信徒が居なければいいが…。」

俺、オルダン・コーケネスは気怠そうにベッドに横たわりながら手元の羊皮紙を眺めていた。
そこに書かれていたのは、

『汝、オルダン・コーケネスは第16試験部隊に転属せし。』

黒字のその一文と、枢機卿公認という証である印のみだった。

「随分と簡潔な書類だこと。」

…所詮、教団は俺たち勇者のことを捨て駒くらいにしか思っていないのだろうな。いや、或いは実験動物か。

そう考えるとやる気を無くす。俺はより一層の倦怠感を覚えベッドをゴロゴロと転げ回る。

そうして惰眠を貪っていると必ずと言っていいほど邪魔が入る。

「オルダン?オルダン・コーケネス。」

扉の向こうで必死に声をかけてくるのは………ケネスか。

「…なんだよ。今、いい感じで眠れそうだったのに。」

「はぁ?何言ってんのよ、これから転属先の部隊に挨拶行かなきゃ。」

何をめんどくさいことを言っているのだこの馬鹿は。せっかくの休日を部隊長の機嫌取りなんかで無駄にしたくはない。

「なに真面目なこと言ってんだアホケネス。俺がそんなことしに行くわきゃねぇだろ。…あー、今15秒くらい無駄にした。…寝る。」

冗談ではない。俺は寝る。そう寝るのだ。週の頭から昨日までぶっ通しで実験続きだったんだ。今日はもうこのまま寝ていたい…。

「…こぉの…バカオルダン!!!!」

ドカァン!!そんな爆音が俺の部屋に響き渡り、俺は慌てて飛び起きる。

「ま、ま、まさか…!?」

直感で感じた通り、俺の部屋の扉は見るも無残に蹴り破られており、その破片が部屋のあちこちに二次災害を生み出していた。

「あーあ、あんたがさっさと起きないから扉が消し飛んじゃったわよ?」

皮肉っ気たっぷりに、煙の中から登場したのは何を隠そうこの扉破壊事件の真犯人たる茶髪のショートカット。ケネス・パーフィナルだ。

「あのなぁ…今月だけでお前、いくつ扉壊した?」

「え?…うーん、と。15?」

「20だ馬鹿野郎!!毎朝、毎朝俺の部屋の扉ぶっ壊してんの!」

その全てが俺の給料から支払われている。安物の木製とはいえ、これでは今月の食費が持ちそうにない。
ちなみに一度、思い切って鉄製にしてみたが、仮にも勇者であるあの女の前では木同然に木っ端微塵にされてしまった。だから俺はなるべく壊されてもいいように安く、安く扉を付け替えているのだ…って自分で言っててアレだが、なんだこれ?

「じゃあ扉なんか無くしちゃえばいいじゃない?その方が私もいちいた蹴り破らなくて済むし。」

「なんだその理屈!?俺が悪いみたいに言うんじゃねぇ!!そもそも、どこの世界に毎朝、扉蹴破って起こしにくる幼馴染みがいるんだよ!?」

「はーい!」

「嬉しそうに手を挙げるな!!…ったく、今準備するから先に行ってろ。」

俺は渋々、ハンガーにつる下げてあったアルフェの制服を羽織りながら、この怪力女に告げた。

「ダメダメ、一緒に行かなきゃ意味無いでしょ。」

「…あのなぁ、だからってパンツ一丁の俺をマジマジと見られてちゃ着替え辛いのだが。いくら幼馴染みとはいえ一応男女なわけだしな?」

「何言ってんの、あんたの下着姿なんて今更どうとも思わないわよ。それどころかフル○ン姿だって見慣れてるっつの。」

相変わらずこの女には羞恥心というものが無いのだろうか?朝早くから廊下でフルチ○とかデカイ声で言える女子はそうそう居ないと俺は思う。

「ハッ…!ていうかお前なんとかして部屋隠せよ!俺今パンツだから…!」

「誰もあんたのパンツ姿見てもなんとも思わないわよ。」

「俺が気にするの!お前みたいな裸族女と一緒にすんな!!」

「はぁ!?誰が裸族だ!!あたしだって一応恥じらいは持ってるっつの!」

…なら何故フルチ○とか言えるんだよ。

「ああもう!急いで着るからあっち向いてろ!!」

「ったく!乙女かお前!!」

お前が漢過ぎるんだよ!!!!





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