現代日本。科学の発展したこの世界にも魔導を信奉する者は居た。
この俺、日野本浩平(ひのもと こうへい)もその1人である。
中世の魔女狩りを発端として、世界大戦で飛躍的進歩を遂げた科学の影響により、異端の徒である魔導士は急速にその勢力を弱めていった。
そんな中で、我ら日野本家は早々に移りゆく時代への対応を進め、新政府による魔導師の摘発から逃れていた。
そして表向きは神社の神主をしながらも、細々と魔導の探究を続けてきた。
俺も幼い頃から魔導については親を始め親族から散々聞かされてきたので10歳を迎える頃にはその筋に関しては相当に明るくなっていた。
もちろん魔導については学校の友人たちにも口外せず、俺は無事高校卒業までに至った。
その後は一人暮らしを始め大学に通いつつ、家に帰って魔導の鍛錬に勤しむ毎日を送っていた。
幸い、家は裕福だったので生活費には困らなかった。
そのため俺は満足に魔導の鍛錬に打ち込むことができた。
そして今ー
「必要な物は全て所定の位置に…魔法陣も…うん、問題ないな。」
散らかった四畳半の中心の床に描かれた奇怪な魔法陣。それを囲むように置かれたこれまた奇怪な供物たち。
蜥蜴の尻尾を始めとしたいわゆる黒魔術で使うような怪しげな物品ばかりが一定のルールで置かれている。
その前で俺は手にした古ぼけた魔導書を見ながら詠唱を始めた。
「“曰く、その者は悪しき存在である。曰く、その者、魔導を齎した存在である。我、その者を敬う者。信奉せしは魔、悪、混沌に沈みに末世の到来。暗転せよ、流転せよ。堕落こそ我が最上の望み。”」
詠唱が進むたびに魔法陣は黒き輝きを放ち始めた。
…なんだ、思ったより簡単だな召喚術というものも。かつては魔導とは違った流派の技であったと伝えられていたが、根底は我らの魔導と変わらぬと見た。
あとは何が出るかだがー
「“…求めに応じその姿を現したまえ!『邪婬』の悪魔よ!疾く、我の下へ!!”」
…ん?邪婬?
詠唱が終わり、魔法陣から一層強く放たれる邪光。吹き荒れる暴風に辺りに散らばっていた本や紙類が宙を舞う中、浩平は微動だにせず魔法陣の中心をジッと見つめていた。
そして、一瞬眩い輝きを放った魔法陣からボフン、という音と共に辺りに煙が立ち込める。
「…さて、蛇が出るか或いはー」
「いったーい!…まったくもう誰よ、こんな雑な呼び方したのは!」
期待を込めた目で見つめていた浩平の眉がピクリと歪む。
…?女の声?
そして晴れ始めた煙の中から現れたのは浩平の思い描いていたものとはかけ離れた存在だった。
「あ!貴方ね、このぞんざいな召喚をしたのは!」
「な!?お、お前が…悪魔?」
青い肌、漆黒の瞳、禍々しい翼。そこまでいい。…だが、なんだろうかこの激しく淫猥な格好をした女は。…いやまあ、美人なのだが。軽く一目惚れしてしまったのだが。
「って、そういう問題じゃない!俺は確かに『地の王』の召喚術を行使したはずだ!!なのに出てきたのはただ破廉恥な格好した女ではないか!?」
「なにその言い方〜、勝手に呼んでおいて随分な言い様じゃない?」
「はっ!もしかしてこんな形(なり)をしていても立派な地の王なのか?
…だとしたら失礼した。私の名は日野本浩平。科学などという邪道が蔓延る現代で魔導を信奉する魔導師の1人だ。いや、正確には魔術師といったところか。」
「ふーん。ま、そんなの私にはどうでもいいんだけど。」
ど、どうでもいい?!
「…確認したいのだが、貴方は『アマイモン』で間違いないのか?俺の目にはどうしてもただの淫魔にしか見えんのだが…。」
「ええそうよ、私の名はアマイモン。悪魔…っていうのもあながち間違いでもないわ。」
「そ、そうか…。」
…ほんとだろうか?どの文献にもアマイモンが女性であるなどという記述は見当たらなかったんだが。
「あ、今私のこと疑ったでしょ!?ひっどーい!私はれっきとした悪魔ですぅー!アマイモンですぅー!」
「…いや、こんな軽いアマイモンがいてたまるか!絶対嘘だろ!?お前、どっかのヤリマンビッチサキュバスだろ!?」
つい出てしまった俺の発言に、自称アマイモンの女はピクリと眉を顰めた。
あっ…なんか地雷踏んだ…?
「あのねぇ…私だって好きで呼ばれた訳じゃないのよ?そもそも貴方が勝手に呼んでおいてそこまで言われる筋合いないと思うのだけど…?」
眉をヒクヒクとさせながら言う女の周囲にただならぬオーラが漂い始める。オーラは魔力でできているようで身体から滲み出る魔力だけでも相当な量が溢れ出ている。
「あ…いや…ちょっと言い過ぎた。…うん、よく見たらすごい悪魔っぽい、いやもうほんと大悪魔って感じ!」
今更遅いとは感じつつも、俺は自称改め、モノホン『
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