二章

ヴェイド・南門ー



「おやおや…もう終いか?」

蛇である下半身を畝らせ、緑の長髪を揺らす妖艶な魔物…エキドナが、正面で這い蹲る人間2人に笑いかける。その笑みは嘲笑うかの如く、ひどく見下したものだった。

「くそ…!流石は魔物の母たるエキドナ…といったところか。」

息も絶え絶えに天パで金髪の若い男が、肘を立てながら必死に上半身を起こした。

「お、怖気付いたなら1人で帰ってくださいね、ケルターさん!」

そう言ってふんす、と鼻を鳴らしたのはトンガリ帽子にローブ姿の魔導士・エルシェだ。
大口を叩いたものの、立てた肘はケルター以上にプルプルと震えていた。

眼下に寝そべる敵2名を眺め、エキドナはハァ、と息を吐いた。その両手を腰に当てて心底残念そうだ。

「…お主ら、この程度の実力で来るなど。…妾たちを侮っているのか?」

「くっ!好き勝手言いやがって…!」

…だが、奴の言う通りだ。実際俺はここに来て、奴と対峙するまで魔物という存在を舐めきっていた。女のみで構成された軍など取るに足らない烏合の衆だと、そう思っていた。なのに…

ギリ、と己の不甲斐なさにケルターは歯を軋ませる。
そして、横で必死に起き上がろうと四肢に力を込めているエルシェに視線を移した。

「…おい、エルシェ。」

「!な、なんですかケルターさん。」

「…………お前、転移魔法は使えるか?」

「え?…あ、はい!…一回に100mが限度ですけど、一応は。」

「…100mか。少々短いがギリギリ間に合うか。いや、だがしかし…」

ブツブツと独り言を呟くケルターをエルシェは困惑した様子で見ていた。

「け、ケルターさん。遂におかしくなっちゃったのかな…。」

「……よし、このプランで行くか。」

心配そうに見ていたエルシェを他所に、ケルターは何かを決意したように真剣な面持ちで顔を上げる。
そして横にいるエルシェに振り返らずして声をかけた。

「おい。」

「こ、今度はなんですか!?」

「…お前、逃げろ。」



「…。」







…はい?

「いやいやいやいや!!何言ってんです!?2人でさえ敵わないのに、私が抜けたらケルターさんの実力じゃ瞬殺されちゃいますよ!?」

…心配しての発言なのだろうが、実にストレートな物言いだ。ったく、いつまで経っても先輩である俺を敬わんやつだ。…だがまあ、この際そんなことはどうでもいい。

「このバカ、俺がお前を逃がすくらいの時間稼ぎも出来ないと思ってんのか?…いいからお前は行け。」

「い、いやですよ!仲間を見捨てて逃げるなんて…!」

「これは上官命令だ!!!!」

「……いや、貴方上官じゃないし。階級としては同等ですけど。」

「……。」

…そうだった。不本意ながらこいつとは形式上は対等なのだった。

痛いところを突かれたケルターはバツが悪そうに自慢の金髪をわしゃわしゃとした後、再度、真剣な面持ちでエルシェに向きなおる。

「いいからお前は行け。」

「逃げて…どうするんです?援軍を呼ぶのですか?」

「違う。これは撤退だ。お前は先行して退がって全軍撤退をテューダー将軍に進言しろ。…敵の強さは予想以上だ。俺たちでさえこのザマなんだ、並の兵ではとても太刀打ちできん。」

「ケルターさん…。」

「お前が撤退する間の殿は俺が務める。…なに、一泡吹かせてから逃げ切って見せるさ。」

ケルターは苦笑する。エルシェはその笑顔がどこか歪であることに気付いていた。

「……分かりました。これより、エルシェは撤退します。」

「ふっ、余計な手間かけさせやがって…先輩の言うことにいちいち反抗すんじゃねぇよ。」

いつもの皮肉を吐いてケルターはむくりと立ち上がった。それに続いてエルシェも杖で、身体を支えながらなんとか起き上がる。

「お?まだやる気かの?」

2人が立ち上がるのを見て、退屈そうにとぐろを巻いていたエキドナは「よっこらせ」と起き上がる。

「……分かっているな、エルシェ?お前は全力で戦域を離脱するんだ。」

「…そして、テューダー将軍に撤退を進言するんですね?」

「…ああ、そうだな。」

なにやら内輪で相談している様子の2人を退屈そうに眺めるエキドナはしびれを切らして声をかけた。

「おーい!やらんのか?こっちは随分待っとるんじゃが。」

「ちっ…!うるさいババァだ。…エルシェ。」

「はい!エルシェ、いきます!!」

元気よく応えたエルシェは一度、魔方陣に包まれた後、一瞬にして消え去った。

「!なんと、転移魔法を使えるのか…?…よもやあの少女、なかなかの大器を秘めておるのでは?」

顎に手を当てて実に興味深そうに笑むエキドナ。だが、次にエルシェが現れたのは先ほどの場所からきっちり100mの距離にある大通りだった。

「わ
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