「…これは、確信犯だな。」
俺、千堂 衷虎(せんどう うちとら)は現在、人生最大の危機に瀕していた。
「…ふっふっふ〜。私の針を受けたわね?ね?…それじゃあ、貴方はもう私から逃げられないわ。」
俺の目の前にいるのは、宙に浮いた(文字通り。)半人半虫の少女。
…いや、自分でも何を言ってるのかよくわからないが、これは紛れもない事実。文面通りの状況が俺の目の前で展開されているのだ。
時刻は19時を回ったところ。未だ駅周辺は人通りが多いが、こんな民家と民家の間にある細い路地には人気なんかない。そんな中でこいつは突然、背後から襲いかかってきた。そして、一瞬首筋を何かで刺されたような感覚に見舞われた後、こいつは目の前にふよふよと飛んできた。
「…とりあえず聞いておこう、お前は…なんだ?」
突然、目に見える形で現れた非日常に俺は、羽とか白黒のシマシマ模様の手足とか他諸々を含めて質問する。開口一言目が日本語だったので少なくとも言葉は通じる相手なのだろうが…。…いかんせん、こいつが何なのかが分からない。
「そうねぇ……強いて言うなら、貴方のお嫁さん。…かしら?」
……。
「……。」
「…ち、ちょっと!何か反応しなさいよ!!なんか私がイタイ奴みたいじゃない…。」
…あながち間違いではないのでは?
「お、おほん!…それじゃあ、気を取り直して。」
咳払いを一つして、なんとかリズムを自分に戻そうとする目の前の“何か”。
改めて自信たっぷりの笑顔でこちらを指差す。
「あなた!私の夫になりなさい!!」
「断る。」
「そ、即答!?」
当たり前だ。突然現れて求婚されて「はい!不束者ですがよろしくお願いします!」とはならんだろ。
「そんな…!私のシナリオだと、『はい!不束者ですがよろしくお願いします!』って言うはずだったのに…。」
…おい、本気でそう思ってたのか。
出会って数分も経っていないが、すでにこいつの人となりというか性格がなんとなく分かってきてしまった俺だが、今一番の疑問にまだ答えてもらっていない。
「…それで?お前は何なんだ?あいにく俺は出会い頭に求婚してくる幻想生物に心当たりはないのだが。」
思わず頭を掻きながらぶっきらぼうに質問を繰り返してしまう俺。
アドリブに対応できない性格らしく、すでにあたふたしている目の前のヤツはなんとか俺の質問に答えた。
「わ、私の名前はメリア。種族はヴァンプモスキートよ!!」
ヴァンプ?モスキート????
期待していた返答とはかなりかけ離れた答えに俺は脳内に大量のはてなマークを浮かべてしまう。
「魔物娘…って聞いたことない?」
「魔物?娘…?」
悪いが今まで生きてきたなかで一度も聞いたことがない単語だ。まず、魔物なのか娘なのかをハッキリさせて欲しい。
「え…と、とりあえずお前は魔物なんだな?」
「ええ、そうよ!巷じゃ『昆虫界の吸血鬼』なんて呼ばれてるんだから!」
さも自慢気に胸を張りながらメリア、と名乗る少女?というか魔物。
「それって、蚊の事なんじゃ…。」
「蚊じゃないわよ!ヴァンプモスキート!!…まったく、この世界じゃまだ個体数が少ないのかしら?」
蚊みたいな形をしているくせに一緒にはされたくないのか、ぷんぷんと怒り出すメリア。
というか、“この世界”とはどういう意味だ?
「…まさか、異世界から来ました、なんていうベタな設定じゃないよな?」
「は?当然、異世界から来たに決まってんじゃない。こんな人間以外に目新しい生き物がいない退屈な世界に、私みたいなプリチーなヴァンプモスキートがいるわけないでしょ。」
退屈で悪かったな。
「そんで、その異世界から来た魔物さんが、極一般的な男子高校生たる俺に何の用だ?」
「…はぁ、あんたもたいがい人の話を聞いてないのね。…だーかーら、私が貴方を旦那として貰ってやるって言ってんでしょ。」
な、なんて上から目線なんだ…!こんな高圧的な告白は初めて見た気がする。
「だから、俺もさっき断ったろ?…ほら、用が済んだならとっとと元の世界に帰れよ。」
「な、なによその言い方!さっきだって魔物を見慣れてない貴方を驚かそうと思って出てきたのに、全然驚かないし。
…もう少し、優しくしてくれたっていいじゃない。私だって1人でこの世界に来て寂しかったんだから。」
なんだかしゅんとして俯きがちにむくれてしまう。その姿に、不本意ながらちょっと可愛いとか思ってしまった。
そしてちょっと可哀想かも、と心の片隅で思ってしまった俺はつい、言ってしまった。
「…あー、まあ、そのなんだ?もし…もし宿とかないってんなら、俺ん宅に来ても…いい、かな?」
おいおい正気か、俺!?相手は得体の知れない虫女だぞ?!いくら美少女だからって…いや、ほ
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