夜も更け、静まり返った森の中で、2人つの光が相対していた。
片方は眩い光を身体から発光させており、もう片方は禍々しいオーラを全身から滲み出させていた。

「…いくぜ。」

「いつでも構わんよ。」

先手を打ったのはバルス、今迄で一番の速度で一直線にサウロの元に駆けて行く。近づくと同時に剣を振り下ろす。

…取った!

ギィィ…ン!

「っ!?」

「…ふん。」

サウロの肢体に斬り込むと思われた斬撃は空で動きを止めていた。剣とサウロの間に微かに揺らめいた魔法陣にバルスは驚きの声を上げる。

「防護壁…だと?」

「ああ…そして、こういう使い方もできる。」

くい、と指を動かすサウロ。その瞬間、剣を受け止めていた魔法陣がグニャリと歪み一点に収束して、バルスに向けて放たれた。

「っ!!」

辺りに金属音が鳴り響く。
咄嗟に剣を構えたバルスは間一髪の所でその刺突を防いでいた。だがー

「甘いな。」

「なっ!?」

第二撃が別の角度から迫っていた。

バルスは空中で無理やり身体を捻りなんとか躱す。しかし、躱しきれなかった腹部を僅かに切り裂く。

「ぐっ!」

ズシャ、と地面に着地したバルスの右腹部からは血がポタポタと滴り落ちていた。
その様を見ながら、愉悦の笑みを溢すサウロ。

「この程度も避けられぬとは…よくもそれで私を倒せるなどと豪語したものだ。」

「ふん…まぐれで当たったくせに、随分と自慢気に語るんだな、司祭様よ?」

「…その減らず口、二度と叩けなくしてやろうか!?」

バッとサウロが手を挙げると、その背後に数十の魔法陣が浮かび上がる。そのどれもが今にも黒き閃光を放たんと禍々しい力の渦を収束させていた。

「な…おいおい、マジかよ。」

「今更命乞いをしても遅いぞ!小童ぁぁぁぁぁ!!!!」

勢いよく振り下ろされた手と共に魔法陣から次々に黒い閃光が放たれた。
バルスはそれを一つ一つ、なんとか回避していく。しかし、またも避けきれずに何箇所かに閃光を浴びてしまう。

「っ、くそっ!」

「フハハハ…!!避けられるはずがないだろう!!…そらそら、どんどん行くぞぉぉぉ!!」

尚も放たれ続ける閃光。
捻り、飛び、躱しながら避けきれない閃光を剣でなんとか弾く。そうして数分の間耐えていたバルスだったが、やがてー

ドッ…

「ぐはっ!!」

「…終わりだな。」

腹部を貫く一筋の閃光、魔法陣から次々に放たれる閃光に紛れさせてサウロの腕から放たれた閃光だ。
激しい痛みに一瞬、怯んだ隙をサウロは見逃さなかった。
すかさずもう片方の手から閃光が放たれる。
それは一直線にバルスの心臓を狙って迫る。

「ぐ…!」
…躱しきれない!!

死を覚悟したバルスが目を閉じる。

バシュゥゥゥ!!

その瞬間、眩い閃光が辺りを照らした。

「な、何事だ!?」

「…!?」

やがて光が治まると、バルスの前には1人の茶髪の女性が立っていた。
その身体は深緑の鱗に包まれており、その腰には長い立派な尻尾が生えていた。

「ま、魔物…?」

「…はい、リヴェラシル殿下の近衛隊長を務めさせていただいておりますゲルダと申します。貴方がバルス殿で間違いありませんね?」

「あ、ああ。」
…な、なぜ俺の名前を?

バルスの前に仁王立ちした彼女は僅かに振り返り自己紹介をした後再びサウロに向き直った。

「…爬虫類が…この私の美しき魔法を弾くとは。…身の程を弁えろ!!」

自分の魔法が、見下していた魔物に弾かれたことにプライドを傷付けられたサウロは怒りを露わにしながらゲルダを睨みつけていた。
対するゲルダはまったく動じることなく、変わらず仁王立ちを続けている。

不意に、再びバルスに僅かに振り返る。

「…あの敵、私1人には少々荷が重いようです。できれば助力を願いたいのですが…。」

そして、そう短く伝えた。
凛とした声で、冷静に尋ねるゲルダに対し、
突然の出来事で暫く惚けていたバルスは、ハッと我に返るとー

「もちろん!逆にこっちが願いたいほどだ。」

そう快活に答えた。
若者の、しかも青年の満面の笑みに心なしか勇気付けられたゲルダは優しく微笑み返す。

「ありがとう…それでは。」

「ああ、共同戦線と行こうか!!」

ゲルダとバルス、並んで剣を構えた2人はサウロへと突撃する。

「バカかっ!2人になったところで我が魔導の嵐からは逃れられん!!」

サウロが再び手を翳すと、魔法の連射が再開された。
だが、依然2人は突撃を止めない。

「…どういうつもりだ?」

2人の行動を訝しむサウロを他所に、ゲルダはバルスに声をかける。

「あの魔法は暫く私が引きつけます。その間に奴を…!」

「わかった。」

そして、遂に閃光の嵐が2人の元に到達した。

「うおぉぉぉぉ!!!!」

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