生ぬるい風が吹いてきた。
町の北側、町長の屋敷から噴き出した暗雲が空をどんどん覆っていく。
それに伴って、頬を撫でる生ぬるい風は徐々に勢いを増していた。
町の中央広場にはジエフと多くの兵士、町の住人達が集まっている。
ツイーズ達が戻って来た時には、ジエフを挟んで兵士と住民との睨み合いがおきていた。
住民達は腕をまくり、石や角材を手に持つ者もいる。兵士達も前面に立つ者は無手だが、後方では盾を持ち、槍と剣の準備が進んでいる。
彼等の気配は険悪・疑心を通り越しいる。切っ掛けがあれば直ぐにでも殺し合いを始めそうな物々しさだ。
「これはまた物々しい気配ですね。あの暗雲への対処もあります・・・手短に説明をお願います。」
兵士の集団と住民の集団、その間に立って双方を制止しているジエフに近づき声をかける。
集まった双方から(他所者は引っ込んでろ)という圧力が視線に乗って突き刺さる。
だが、そんな視線を気にもかけないツイーズはジエフに返答を促す。
「・・・よくこの間に入って来れますね。貴方を尊敬しますよ。
つい先ほど、町長の屋敷に隠されていた地下通路の扉を開けました。そしたら黒い煙が中から吹き出してきました。」
聞いたのは住民と兵士の争いについだが、ジエフは順を追って状況を説明するつもりのようだ。
だが、そんなのは待てぬというように住民側から声が上がる。
「なんで地下通路なんて探してたんだ!? しかも俺たちに話もなく扉を勝手に開けやがって!」
「大恩あるミットンさんの屋敷だってのに、オレらを近づけさせなかった!こいつらやっぱりミットンさん家から宝を盗み出すつもりだったんだろう!」
「それどころか、盗賊達の襲撃も全部お前達の仕組んだことなんだろう!この侵略者め!」
代わる代わる響く怒りの声に、住民達の熱気が上がっていく。
対する兵士達は口こそ開かないが、怒りで頬が引き締まり、蔑視の混じった視線は睨み殺さんばかりだ。
「・・・はい。取り敢えず事情は分かりました。それで、ツイーズ殿? 拙僧が昨日伝えた言葉は覚えていますか?」
周囲の反応で朧げな事情を察したツイーズはより重要な議題へ話をもどす。
「!?・・・はい。覚えています。地下室や地下通路の扉を見つけてもしばらくは開けるな。でしたね。」
ジエフは住民の拳が振り上がると身構えていたが。それを無視するツイーズの発言に毒気を抜かれつつ。返事を返す。
周りの住人や兵士たちも異様な暗雲は怖い者が多いらしく、一旦は拳を収め、2人の話を聴く雰囲気となった。
「何故開けたのですか?」
「・・・」
端的で鋭い問いかけに、ジエフの表情が苦渋に歪む。だが、直ぐに口を引き結ぶとツイーズと向き合った。
「彼女が・・・。私の恋人シノン・バッハベルの行方が分かっていません。避難した住民の中にはいませんでした。町の中も広く探しましたが、生存者にも遺体の中にも彼女は見つかりませんでした。
彼女が目撃証言から考えて、探してないのは彼女の家である屋敷の地下だけです。」
「・・・なるほど。貴方の誠実な気持ちは分かりました。」
ツイーズは心に浮かぶ諸々の批判を飲み込んだ。恋人を救いたいと願う彼の気持ちを責めるのは、ツイーズの価値観に反する。
まあ、一言相談があると嬉しかったが。昨日の今日来たばかりの自分では難しいかと諦めた。
「とは言え、こうしてノンビリ話をしている間に後手に回りましたね。周りを見てください!」
その鋭い声に広場にいる者たちが驚き辺りを見回す。
いつのまにか空は殆どが暗雲に塗りつぶされ、濃い闇が辺りを覆っていく。
何人かの兵士が慌てて篝火を点けて回る。
それでも見えるのは広場の端程度まで。広場の外は暗い闇に閉ざされている。
「お!おい!あれ!」
そんななか、最初に気づいたのは兵士の1人だった。その声に全員がそちらを見る。
広場の南西、瓦礫も路地も一様に黒く塗りつぶされた中に2つの赤い光が浮かんでいた。
「・・・あれは?」
「目ですよ」
「目?」
見ていると寒気を覚える謎の光に、誰とも知れず呟かれた疑問をツイーズが拾い上げる。
ジエフがしたツイーズへの問いかけは、この異常に惑う者達全員の気持ちを代弁していた。
曰く、アレは「何の」目なのかと。
カシャ・・・カシャ・・・
また別の場所から、乾いた足音と共に赤く光る目が現れた。
そう思うと、1組、また1組と光る目が増えていく。
「・・・っ! 松明を投げろ!」
ジエフの声に、篝火の近くにいた兵士が動き出す。
篝火から松明に火を点けると、怪しい目の近くへ投げた。
「ウワッ!」
「ひ、ひぃぃぃ」
「な、なんだ?あれは?」
落ちた松明が照らし出したの
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