廃墟の町 上

 眼前を波のように炎がウネリを上げていた。
 家々を薪にして、夜空から降る雨をものともせず高く伸び上がる。

 生まれ育った町が燃えていた。
 何度も通った友達の家が燃えている。
 よくお菓子をねだりに行った家庭教師の先生の家が燃えている。
 炎は町を飲み込み、波のようにうねりながら次の家、次の通りと広がっていく。

 その炎の中を通る一筋の空白。2階から見下ろす大通りには恐ろしい襲撃者達がひしめいていた。
 襲撃者達の手に手に小さな火が点っていく。火矢だ。
 これで2射目。
 1射目で既にこの屋敷にも火が付いている。正門の後ろに集まった衛兵達からも何人かが倒れたのが見えた。
 2射目が来たら次は刃を持った襲撃者達が押し寄せるだろう。

 バルコニーに出た父の大きな背中を見つめる。
 一緒に逃げようと掴んだ手はとうに振り払われてしまった。
 私に逃げろと言って。
 無言の父の背は私に逃げろと繰り返している。

 大通りの火矢が一斉に此方を向いた。
 私が息を飲む。
 その時・・・。

 ドン!
 父が足を踏み鳴らした。私に「行け!」と命じるように。

 足音に押され、父に背を向けて家に駆け込む。ポロリと、溢れた涙が冷たい。
 家の中はすでに煙が広がりつつある。火の手は見えないがパチ、パチと爆ぜる音がそこかしこから聞こえてくる。
 半身に伏せて、バルコニーのある玄関側から裏側にあるメイド用の階段まで走った。
 見えにくくしてある扉を開けて中に滑り込む。

「ごほ! ごほ!」
 階段はすで煙で満たされていた。手で口を塞いでいても少し吸い込んでしまい、苦しくて咳き込む。
 先ほどとは違う涙が出てくる。
 どうやら一階から煙が上がってきている様だ。

 苦しさを堪え、煙をよけようと座りながら階段を降りていく。
 下から2段目まで無事に降りると、1つ上、3段目の階段板を手で探る。
 板の端に隠されたスイッチを探し当てた。階段板がパカリと下に開く。
 最近伸び始めたしなやかな足から中に滑り込む。

 其処は50cm四方程度のスペースで一見扉は無い。
 だが、床に手をついて少し探ると隠されたフックを引き出すことができた。
 フックを引っ張る。跳ね上げ扉が意外なほど軽く持ち上がった。

「うっ・・・ゴホ!ゴホ!」

 辺りの煙の量がドンドン多くなっている。
 急いで中に戻りこんで扉を閉めた。


 扉の下は細い通路だ。
 明かりはない。
 もとより、換気が不十分なこの通路で火は使うとなと言い含められている。
 暗闇の通路を習った通りに進む。
 母の様に明かりの魔法が使えたらよかったのにといつも思うが、使えないものは仕方がない。
 左手を壁につき、自分の体も見えない中をゆっくり進む。

「どこかに・・・。あるんだよね」
 進みながらポツリと呟く。
 この通路の何処かに、国王陛下から下賜された宝物が隠されているらしい。しかし此処を通る時はいつも暗闇だから見たことがない。

 真っ暗な中を出来るだけ急いで進む。
 しばらく行くと、壁の感触が変わった。
 石壁から土壁に。

「もうすぐね」
 確認するように呟くと、空いてる右手を探るように前に伸ばしておく。

 さらに進むと、右手が冷たい壁に触れた。

「ここね」
 上を見上げる。手を伸ばせば届く天井も暗闇のなかでは見分けることができない。
 手を上に伸ばす。固めた土の感触。
 両手で探っていく。

「あ・・・」
 指先に固いものが触れた、金属の冷たさがある。
 鎖だ。
 引っ張れば、隠し扉を開けられる。
 息を整え、鎖を引こうとしたまさにその時。

 ドン!

「!」

 ドン!ドン!ドン! ドドン!

「・・・」
 何かが頭の上、隠し扉の上を通っている。
 息を殺して地上の気配を探る。

 1人じゃない。何人も通っている。
 町から脱出してきた住民だろうか?

 いや、逃げれる人は母に連れら得てとっくに逃げているし、ここはまだ町に近い、留まる理由は無いはずだ。
 それに救援がこんなに早く駆けつけるとは思えない。
 ・・・ということは、盗賊の仲間の可能性が高い。

「・・・」
 息を殺して通り過ぎるのを待つ。
 だが、頭上の物音はなかなか止まない。
 それどころかガヤガヤと話し声らしき音も聞こえる。
 しばらく見上げていたが、やがてその場を離れて通路を戻ることにした。


「はあ・・・」

 半分程戻っただろうか、十分離れたことを確認すると緊張の糸が緩んだ。
 壁に背中をつけると、そのままズリズリと座り込んでしまう。

 緊張続きでいつのまにか疲労が溜まっていたのだろう。
 まだ幼さの残る体から力が抜けていく。

「どうしよう・・・」

 燃える家に戻ることはできない。
 隠し扉もしばらく使えそ
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