レスカティエ第37駐屯

 雨の夜、夜陰に紛れて蠢く者たち。足音は雨に紛れ、夜を照らす月や星は分厚い雨雲の上ばかりを照らしている。雨雲が閉ざす帳の中を蠢き進む者たち。
 雷でも落ちれば彼らの姿を照らしたかもしれないが、その夜は彼らの味方だった。

 彼らの向かう先にあるのは小さい町。
 規模は小さくても年季を感じる街並みで、年月をかけて作られた石造りの壁は上質とは言いがたいが、不埒者を簡単に通すようなものではない。
 ただ、雨に濡れた壁はどこか物悲しく、俯いているかのように、見る者に感じさせた。

 雨と陰鬱な気配は夜の見張りをする町の守衛たちの間にも広がっていた。彼らは見張るべき外に背を向け、門の横に作られた、小さな見張り塔の中で憂鬱そうに竈の火にあたっている。

 そんな守衛たちの様子を見定めると、先行して町の近くまで忍び寄った者はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、後方に向けて鳥の鳴きまねを3度おこなった。
「ホー、ホー、ホー」

「ん?なんだ?・・・・・・ふくろうか?」
 守衛の1人である青年はその声を聴くことができたが、外の真っ暗闇を少し見ただけ。 ふくろうは雨の日でも鳴くんだなと、深く考えることもなく暖かな竈の火へと視線を戻すのだった。

 それが生き延びる最後のチャンスだったとも知らずに。


ヒューーーーー・・・・・・
ゴッ!ゴオォォォォオン!!!!


 青年たちを襲ったのは、空から降って来た楕円形の大岩。
 どこからともなく飛んできた大岩の一撃は門と見張り塔を粉砕し、なんども転がりながら近くの建物を押しつぶしていく。

 轟音に家から飛びだしたある町の男は、隣の家を押しつぶして止まっている大岩に驚き呆然としていたため、門の残骸に蠢く影に気づいた時には遅かった。


ヒュッ!


 放たれた矢は雨粒と風を切って飛び、男の右腹に深々と突き刺さっていた。男は腹の痛みにもんどり打って悲鳴を上げる。
 その悲鳴に誘われるように、門からおびただしい数の男たちが入ってきた。

「敵襲!敵襲!」
「くそう!盗賊だー!」
「この野郎ども!進ませるかー!」

 駆け付けた幾人かの町の守衛達が大声お上げて警戒を知らせ、盗賊たちには威嚇の声を上げるが、焼け石に水であった。
 門からは続々と盗賊たちが侵入しており、たとえこの町の守衛全員がこの場にいたとしても手に負える数ではないのは明らかだった。

 とある守衛は、闇夜に隠された門の先に蠢く者たちを、人ではないのではないか、人を取って食うと話に聞く凶悪な魔物なのではあるまいか。そんなことを思いながら、腹を切られてこと切れるのだった。

 その晩、とある反魔物国家の小さな町が大規模な野盗団の襲撃によって炎上した。 火の手は雨にも負けじと燃え盛り、その光は近隣の村々からも見えるほどだったという。

 そして数日後、重い腰を上げて訪れた討伐軍が目にしたのは、完全に焼け落ちた町と炭となった数多の死体だけであった。



#10070;


「よーし、みんな集まったな。今から作戦会議を始める!」

 そこはウトと呼ばれる小さな町にある会議室。
 長テーブルには8名の人と魔物が集まっていた。

 会議の開始を告げるのは議長席に座る男、ロイ・ノイマン。
 歳は40ほどで、半袖のシャツに動きやすいレザーアーマーを着こみ、むき出しの腕は逞しく鍛え抜かれている。

「今回は遠征ご苦労。ぎりぎりまで楽しんでいて、全く事情を知らない者もいるだろうから、順を追って説明するぞ」
 ロイはそういって説明を始める。

「まず3日前の早朝、我らがレスカティエ第37駐屯にウトの町長から救援要請が届いた。救援の内容は最近この辺りを荒らしまわっている盗賊団を撃退し町を防衛することだ」

 
 ロイが説明を始めても夫を持つ自堕落な魔物たちは聞いてない。
 ロイの右前方に座る白鷺の羽根つき帽を被ったぬれおなごのスズはロイのことをうっとりした表情で見つめ、その足にこっそりと触手を伸ばしている。
 話の流れから、たまに他の出席者に目を向けることもあるが、正面の席だけは向こうとはしない。

 ロイから見て左の末席に座るウンディーネの魔精霊であるミアハさんは隣に座る夫にもたれ掛かって熱い息を首筋に吹きかけている。
 出席者の中でも特に当事者と呼べる立場なのだが、我関せずといった体だ。間違いなく上座の方を向きたくないだけだろう。

 
 では一人身の魔物娘が話を聞いてるかというとそうでもない。
 ぬれおなごのスズの斜向かいには、気弱そうなワーラビットのポアラが座っている。だが、その気弱そうな表情には似つかわしくない巨大なまさかりが椅子の背に立てかけてあり。大胆に背中を開けた服
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