「あっ、起きた?」
深い眠りから抜け出す。
頭の中がみるみるうちに覚醒してゆく。
ぼやけた視界に最初に入ってきたのは、すぐ隣に寄り添っている白嵜メグの美しく整った顔立ち。
「――夢じゃあ、なかったんだ…」
俺はメグと、白嵜恵と一線を超えてしまった。
見渡す限りに広がるラブホテルと思わしき内装。裸同士で寝ているというこの揺るぎない状況証拠。そして今でも脳裏に蘇る二度と忘れえぬ鮮烈な初体験の数々を慮っても明らかだった。
「なんか…、ごめんね。私、かなり強引になっちゃったよね…」
申し訳なさそうに恵は謝罪の言葉を綴る。彼女は続けて、自らのホルスタウロス族としての性について語りはじめた。
――そもそもホルスタウロス族とは、同じ獣人型である気性の激しいミノタウロス族から進化した、いわば亜種なのだそうだ。
彼女たちは普段は穏やかな性格をしているのだが、極度の興奮状態に陥ると遺伝子に刻まれたミノタウロス族の血に目醒め、荒ぶってしまうのだという。
「だから…その…、あの時は、自分が自分でなくなったというか…その…とにかく、ごめん…イヤ…だったよね?」
彼女は暴走して俺を犯してしまったことに引け目を感じているのか。耳と尻尾をしゅんと垂らし、ひどく落ち込んでいる様子だった。
「気にしてないよ。そりゃあ最初は戸惑ったけど、かといってイヤってわけでもないし。それに俺ってば、どっちかというとマゾ寄りっぽいから、強引に責められるぐらいが興奮するのかなぁ。なんて」
「イヤじゃ…ないの?ホントに…?」
「イヤであるわけないよ。恵とエッチできたんだから、むしろ嬉しいぐらい。昨日のは自分的に全然許容範囲だし、気に病むことなんてないって。それに言ったでしょ。これからはお互いを知り合ってこうって。ホルスタウルス族のことについて教えてくれてありがとうね。恵のこと、また一つ知れてよかった」
「蓮太くん…」
「うん、それに、その…。昨日のイケイケモードな恵も、俺は好き…だしね。好きな子に積極的に迫られるのが嫌な男なんて居ないって」
俺が言い終えると彼女は、暗闇の向こうに光を見出したかのように心の底から安堵した様子で満面の笑みを浮かべる。宝石みたいに綺麗な淡いグリーンの瞳から、透明な雫が一粒こぼれ落ちた。
「やっぱり私…!蓮太くんのこと。好きになってよかった…!」
「俺もだよ…。こうして恵と巡り会えて、愛おしいって思えるのが。すごく幸せなことなんだ」
「蓮太くん…」
「恵…」
二人の視線が一つに結ばれる。
恵はそっと目を閉じた。それを合図と受け取り、彼女の唇を奪おうとした。
ところが、その甘い空気を破り捨てるように、部屋の隅に荷物と一緒に置かれていた二つのスマートフォンが、けたたましい着信音を鳴らしはじめた。
「しょうがない、よね」
突然現実に引き戻され、興が醒めてゆく。
二人揃って気怠く立ち上がり、各々スマホに手を取り確認した。
「げっ、上司からだ」
「私もマネージャーさんから…」
着信と表示されている画面にはそれぞれ上司とマネージャーの名前が映っている。十中八九、休日出勤の呼び出しだろう。
――このまま通話に出てしまえば、きっとこの夢のような時間は終わってしまう。
「あのさ。俺、恵と同じこと考えてると思うんだけど、当たってる?」
「…当たり♪」
二人で面を揃え、ニッと悪戯っぽく笑う。そして大きく振りかぶり、野暮でつまらない現実を遠くへ投げ飛ばした。
カーペットに転がった二つのスマホはしばらく鳴り続けたが、やがて息絶えるように静まり返る。
「さ、続きしよっか
#9829;」
恵は俺の手を引き、二人だけの世界へと導いた。
ベッドの上で重なり合い、激しいキスを交わす。
「ねぇ、今日はこれからどうする?」
「ん〜、まずお昼までたくさんして。それで、あーちゃんに報告がてらLily・LAに行ってランチ。かな?」
「そのあとは?」
「そしたら…。ここに戻って、蓮太くんとまたいっぱいエッチしたいな…
#9829;」
「うん、いいと思う」
再び彼女に口づけし、温もりを確かめあう。
二人の間にだけ流れる、甘くて蕩けるような時間に溺れながら。ふたりで数え切れないくらいの愛を紡いでいくのだった
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