もしも 威勢のいい魔物娘の銭湯があったら……

冬の寒さをはらんだ北風が町を通り抜けていく。
青年は思わぬ寒さに肩を抱き、手桶を小脇に抱えながらその身をぶるりと震わせた。

この青年の名はいなりや京介。
親元を離れ一人大学に通う、アパート暮らしの学生である。

彼は今朝がた自らが住まうアパートのボイラーが不調、
風呂にお湯を張れないことを管理人より聞きおよび、ならば近所の銭湯にでも行ってみるかと思い立った。

彼の服装は至ってシンプルである。
麻布のシャツに綿の詰まった野暮ったいどてら、下は気取る所の無い無地のスウェット。
靴下もなく履かれたサンダルからは素足が覗いている。
小脇にはいやにレトロな竹の手桶を抱え、中にはシャンプーと髭剃り、タオルと替えのパンツが入っている。

少なからずノスタルジックに浸っている彼は、口笛でも吹きたくなる心持ちでやがて一軒の銭湯にたどり着く。
煙突に達筆で書かれたこの店の屋号──「黒酢湯」と書かれたのれんをくぐり、彼は中へと足を踏み入れた。



「へらっしぇー!!」



刹那、どこの言葉ともつかない威勢の良い掛け声が京介の耳をつんざく。
すわ何事かと辺りを見回すと、番台に座る角の生えたゴブリンの少女がこちらへ向けてにんまりと微笑んでいた。
無邪気の塊のようなその笑顔を可愛らしいと思う間もなく、京介はぐいと腕を引かれる。

「へらっしぇー!」
「へらっしぇー!」
「へぇまいどぇー!」
「こっちゃへどぜぇー!」

番台の少女から目を外しそちらへ向けると、そこには何匹ものゴブリンの少女が我先にと自分の手を引いている姿が飛び込んでくる。
それもゴブリンの少女達の服は何故だか全員が祭りで使うような半被姿、
おまけに慌ただしさの中で目にした半被の中にはシャツどころか胸当てすらもつけておらず、
成長こそ乏しいが赤々と存在を主張する二つの乳房がこちらへ色っぽい視線を投げかけていた。

下などはもっとひどいもので、穿き物すらなく誰も彼もが幼くも艶めかしい細足を惜しげもなく晒している。
ただし全くの裸体ではない。女性として最も尊重すべき部位にだけは、なぜか誰もが白い荒縄をまわしのように結びつけ、露出を防いでいる。
とはいえ人目を隠すという意味ではあってないようなもので、むしろきつく巻き付けられた少女達の褌は
ふるふると震える小ぶりな尻に食い込んで余計に際立たせているようにさえ見えた。

上は全裸半被、下は褌という理解しがたいゴブリンの少女達の出で立ちに京介が恐れおののいている内に、
ゴブリンの少女達はまるで山賊のように慣れた手つきで無理矢理京助の衣服を剥ぎ取っていく。

「はいお着物脱がせっしぇー!」
「ぬがせっしぇー!」

反射的に京介は抵抗を試みるが、ゴブリンの圧倒的な腕力の前ではただ虚しいのみ。
複数の腕に身体を折り畳まれ、まさぐられ、時には指先に湿っぽい水気を感じている内に、あっというまに裸に剥かれてしまった。

「はい一名様ご案内っしぇー!」
「こっちゃへどっぜぇー!」

またも複数のゴブリンに手を引かれ、京介は幼子のように風呂場へと案内される。
途端、威勢のいいゴブリン少女の掛け声に合わせるようなけたたましい太鼓の音がどんがどんがと鳴り響く。
手を引かれつつも気になり音のする方を向くと、なぜか浴室の隅でホブゴブリンの少女が両手にバチを持って太鼓を打ち鳴らしていた。
その叩き方はいかにも荒々しく、腕を大きく振るい上げるたびにぶるんぶるんと半被の中の胸が大きく上下左右に揺れている。
何故だかその光景に一抹の和を覚えながら、京介は少女達に導かれるままに強制的に風呂椅子に座らされた。

どんがどんがどんがどんが!
「はい湯ぅ掛けっしぇー!」
「ゆかけっしぇー!」

椅子に座りようやく一呼吸置いたのも束の間、ゴブリンの少女はタライに水を汲むと、遠慮なく京介の頭になげかける。
ゴブリン少女は交替で京介に水をぶっかけ、ものの五秒と経たぬ間に京介の身体は濡れ鼠になった。

どんがどんがどんがどんが!
「さー次はお体洗いっしぇー!」
「あらいっしぇー!」

その言葉と共に水撃は止まる。京介は閉じっ放しだった目を開こうとして、目を拭うために右手を顔に寄せる。
しかしその手は何者かによって絡め取られる。目を開けずとも、ゴブリンの少女であろう事は予測がついた。
一体次は何だ──と京介が考えた刹那、電流が走ったような衝撃が指先から脳髄へと伝わった。

くちゅ、と、明らかに風呂のものでない水音が手先から聞こえる。
続けて感じたのは、暖かくすべすべとした優しい肌ざわりと、小さな割れ目をなぞるような感覚。
そして京介がパニックから立ち直りこの状況を分析するより前に、背中に伝わるぬるぬるとした平たい感触。
胸に感じる唾液と舌の感触。もう片方の手から伝わる、小さな突起物の間隔。そし
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