クッキーの魔力


「お嬢ちゃん、クッキーをあげよう」

人のいい青年はそう言ってクッキーを少女に手渡す。チョコチップの練り込まれた、大きくも小さくもない一般的なクッキーだ。
強いて言うのなら、生地の色や質感から手作りらしい事が伺える。

少女──魔女セレナは無垢な子供を装いじっと青年と、周りの風景を観察する。
まだ日が高いお昼時、ひとけのない路地裏、クッキーをくれる青年、どこか含みのある笑顔、そして少女である自分。
これらの状況証拠から、彼女は目の前の青年がいたいけな少女を巧みに誘い出し性的なイタズラを加える変態ロリコンお兄さんである事を確信した。

セレナはふっと帽子のつばを下げ、表情を隠す。一見すると照れて顔を隠したように見えるそんなポーズで、セレナは自分でも信じられないくらい凶悪に笑う。
やがてつばを戻して青年を上目遣いに見上げると、無垢で何も知らない少女の顔をして青年のクッキーを受け取った。

「ありがとう、お兄ちゃん!」

その場でクッキーを口に含みぱりりと噛み砕く。チョコレートの甘苦い風味がクッキー自身に含まれたミルクの味と混ざり合い、口の中でふわりと溶ける。
材料はよく分からないが、薬のようなものは入っていないようだ。セレナは幼い体に秘めた淫らな本性とはまた別の所にある少女の心で純粋に美味しい、と感動し、口に残るクッキーの後味を堪能する。
指に少しついた粉末を、ちろりと小さな舌を出して舐め取る。青年はその様子を満足気に眺めると、少し腰を落としてセレナと視線を合わせて言った。

「お嬢ちゃんは、クッキーは好きかな?」
「うん、大好きだよ!」

嘘ではない。彼女自身がそうであるように、サバトに所属する幼い姿の魔物は実年齢に関わらず甘いものを好む。
偉大なる魔力と知識を持つサバトの長バフォメットも例外ではないし、実際黒ミサなどの集会の際には、気のきく魔女が手作りお菓子を持ち寄って宴の合間につまみ合う事がよくある。
そして青年から受け取った先程のクッキーは、そんなセレナの肥えた舌をもってしてもなかなかの逸品であった。

「ハハハ、そうかい。実はお兄ちゃんはお家でクッキーを作ってるんだけど、ちょっと作りすぎちゃってね。よかったらお嬢ちゃんに食べるのを手伝ってほしいんだけど、どうだろう、お兄ちゃんのお家まで来てくれないかな?」
「ホント!? クッキーいっぱいある!?」
「ああ、余るくらいにね」

セレナの心の少女と魔物が腕を組み、喜びのダンスを躍り始める。お母さんが娘へ伝える「ついて行っちゃいけない人」の代表格のようなこの青年は間違いなく自らの幼い身体に興奮し、欲情し、お菓子欲しさのあまり軽率な行動を取った少女の後悔に満ちた顔を見ながらロリまんこにデカマラ突っ込んで後ろからガッツンガッツン犯したくてたまらない性犯罪者に違いない。
つまりはセレナからすれば、カレーに乗せたハンバーグに更にパイナップルを乗せる程のごちそうである。
セレナは大いに興奮しながらも少女の顔は崩す事なく、頭は冷静に算盤を弾く。顔は目元が優しげな好青年、若くて背が高くお菓子作りが上手。非の打ちどころの無い結果にセレナはこれだけで絶頂に達してしまうほど自身の幸運に感謝しまたも凶悪に笑った。

「うん、行く! お兄ちゃん家行く!」

とはいえあまりに好条件が揃い過ぎており、教団のおとり捜査の可能性も否めない。セレナは念のため逃走用魔術をセットしつつ、獲物を見つけた狩猟犬の如く慎重に青年に付いていく事にした。

そうして青年に連れられ、五分ほど歩くと家に着く。
青年の家は何の変哲もない集合住宅の一つである。先程までクッキーを作っていたのか、部屋の中はかすかに砂糖とチョコレートの甘い匂いが漂う。
セレナは青年の部屋とおぼしき小部屋に通される。飾り気のないシンプルな部屋で、クローゼットとテーブルの他にはベッドがあるばかり。いよいよ青年の本性が見え隠れしはじめ、魔女は頬を染めて気付かれぬよう微笑した。

「はい、召し上がれ」
「いただきます!」

てっきり部屋に連れ込んだ瞬間押し倒されるのかと思ったが、存外青年は冷静であった。
椅子にセレナを座らせると自身は一度退室し、次にクッキーが山盛りになった大きな皿を持ってセレナの前に現れる。
先程セレナが貰ったクッキーと同じものだ。夢のような光景にセレナはうっとりと両手を合わせ、食前のあいさつをすると早速クッキーをつまんで口に入れる。

青年はいつ自分にエッチな要求をぶつけてくるのだろう。まあ、狂乱の宴をおっぱじめる前にしっかりと栄養を取っておかねば。
そんな事を考えつつ、セレナは夢を夢で終わらせないためクッキーを口に運んではその甘さに悶え続ける。一方の青年はセレナの思っているような行動に出る事はなく、クッキーを食べるセレナを楽しそうに眺め自
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33