へびいちご

 白蛇さんが。


「あーむ」


 苺を口にくわえて。


「んっ
#9829;」


 それを突き出して。


「へふぃひひほ
#9829;」


 へびいちご。


「…………………………………………」


 どうしよう。大分リアクションに困る。


「へふぃひひほ
#9829;」
「あ、いや。分かってますから、へびいちご」


 俺が気付いていないと思ったのか、くわえた苺を再度こっちに突き出す彼女。
 語尾にハートマークが付いている辺り、その表情はお察しの通り。
 尻尾の先をフリフリ、とっても良い笑顔に大きな期待を乗せて目を瞑っている。


「あー、そのー」


 この白蛇さん、ある日突然我が家にやって来た押しかけ女房さんであり。
 俺の理解が追いつかない間に、あれよあれよと身の回りのお世話にご近所さんへの挨拶までこなされ、ぺちゃんこになりそうなぐらい重く巨大な愛情を向けられて。
 そんな重力3倍の生活にもなんとなく慣れてきてしまい、最近は自分でも彼女と一緒にいることが自然な感覚になってきたぐらいの時期。
 で、その彼女が作ってくれた夕飯(今日もおいしかった)を平らげた後。
『へびいちごを食べませんか?』と聞かれ、何のことかと思えばこういうことだったわけで。


「んー
#9829;」


 しかし、これはリアクションに困る。
 彼女の要求即ち、マウストゥマウスでの苺渡しだろう。
 もうこれぐらいで顔を真っ赤にして慌てふためくほど初心な間柄でもなく。
 かといって、ここで彼女の髪を撫でながら笑顔で苺を口にくわえられるほど熟れてもなく。


「ん〜
#9829;」


 こうして考えてる間にも、彼女は尻尾でパタパタ床を叩いて催促してきている。
 とりあえず何もしないままでいるわけにもいかず、俺は人差し指をすっと彼女の口に近づけると。


「ていっ」
「んむっ」


 くわえられた苺を彼女の口に押し込めた。
 しゃくしゃく、釈然としない顔で苺を咀嚼する彼女。
 ゴックン、と苺を飲み込んだところで。


「貴方様ぁ……」
「ご、ごめんなさい……」


 少しムーっとした感じのジト目を向けられてしまった。
 反射的に謝ってしまう俺に、彼女はその優しくも咎めるような視線を送り続けてくる。


「貴方様はいけずです……」
「えっと……苺、美味しかったですか?」
「はい、よく甘味の乗った良い苺でした。ですから、貴方様もぜひ……」


 ごまかすような俺の問いに微笑みながら答えると、再び彼女は。


「あーむ」


 苺を口にくわえて。


「んっ
#9829;」


 それを突き出して。


「ふぁい、あはひゃひゃまぁ
#9829;」


 はい、貴方様ぁ。


「…………………………………………」


 どうしよう。めちゃくちゃリアクションに困る。


「んーっ
#9829;」


 彼女の口に苺を押し込めるというのも、二度目は通用することはないだろう。
 尻尾を使ったこちらへの催促も、パタパタからパシンパシンと強いサインへと変化してしまっている。
 もはや選択の余地は無いかと諦めかけたところで、俺はテーブルに置いてあったフォークの存在に気付き。
 フォークを手に取ると、その先を彼女の口にくわえられた苺に突き刺して。


「ていっ」
「んっ」


 彼女の口から苺を奪取した。
 しゃくしゃく、そのまま苺を自分の口に入れて咀嚼する俺。先の方の熟した甘味と、ヘタの方の爽やかな酸味。


「貴方様ぁ……」
「んぐんぐ」
「……美味しいですか?」
「んっ……美味しいです」
「むぅー……」


 素直に頷く俺に、彼女は可愛らしくもぷくぅーっと頬を膨らます。
 流石にちょっとマズかったかな、と頬をかいていると。
 彼女はムッとした顔から一転、ニッコリと笑顔に変わり。
 テーブルの苺の一つを手に取ってその掌に乗せて。


――ボオオオオオオオオオオオオオッ!


 苺が青い炎に飲み込まれた。


「さ、貴方様♪」
「……え? マジですか?」


 唖然とする俺の目の前に、魔力の湯気でほこほこと香ばしい気がする苺が差し出される。
 白蛇の青い炎――もしも身を焼かれてしまったら最後、白蛇の水の魔力に浸かっていないと、いつまでも火傷のように男の身体を苛むというアレだ。
 そんな代物でBBQされた苺を口にしてしまったら……お口が火事になるのは想像に難くない。


「あのすみません謝りますからその苺を食べるというのだけは許してもらえませんかお願いです何でもしますから――」
「へびいちごほう、よういー」
「……へ?」


 平謝りを始めたところで、だけど彼女はニコニコ顔のまま、手を軽く丸めるようにして苺を握る。まさしく筒のような形。
 唖然、騒然、そして呆
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