――抜けるような青空の下と、大きな白い雲。
打ち寄せては消えていく細波に、空の青と溶け合う大海原の青。
空を自由に飛び回る海鳥達の声。
強い太陽の光を浴びて、熱を持った砂浜を、二人で。
僕らは裸足のまま歩いていく。
「わぁ……すごくキレイ……」
彼女は眩しげに目を細めながら、どこまでも続いていく水平線を見渡している。
背中から生える無数の触手と目玉、白い肌と長い黒髪。紅く輝く大きな一つの瞳。
それは彼女がまだ少女といえる年齢だった頃から変わらないけれど。
彼女は鍔の広くて大きな純白のハットと、淡い水色のロングワンピースを着て。
背丈はけして高くなくっても、スラリと伸びた脚に女性らしい胸の大きな膨らみが。
彼女が『可愛い女の子』から『美しい女性』に成長したことを物語っている。
「ね? もっと向こうまで行ってみようか?」
僕の手を取りながら、彼女が砂浜の遥か先を指差した。
曇りの無い、屈託の無い……そんな笑顔。
「……どうかした?」
「あ、いや……」
胸に湧き上がる言いようの無い感情のせいで、少しだけ反応が遅れた僕のことを、彼女は首を傾げて覗いてくる。
「なんだか……遠くに来たな、って感じで」
ずっと彼女は、こんな明るい場所で、こんな明るい表情をするような子ではなかった。
いつだって彼女は自分に自信が無かった。
暗い場所が好きで、他人と関わることが嫌いだった。
笑うときも、意地の悪い笑みで、だけど笑顔が消えた瞬間に、ふっと寂しそうな表情を浮かべる。
そういう屈折を抱えた、小さな女の子だったのに。
それがどこまでも遠い昔に感じられてしまったから。
「なに、それ? おかしなこと言うね」
「……おかしい、のかな」
彼女と出会って、彼女の隣で歩くことができるようになるまで、たくさんの時間が必要で。
彼女の隣で歩けるようになっても、彼女の手を取ることができるようになるまで、またしばらく時間がかかって。
最後にこうやって……空中を浮かんで移動してばかりだった彼女が、自分の足で僕と一緒に歩くようになって。
やっぱり僕らは、遠くにまで来たんだと思う。
「……ねえ」
「なぁに?」
言いようが無かった感情が、少しだけ形になり、言葉になったから。
僕は柔らかな手を握りしめ、彼女に向き直った。
「大好きだよ」
彼女は少しだけ恥ずかしそうに頬を染め。
「うん、私も……大好き」
だけど真っ直ぐな感情を向けてくれながら――
「――今度は、“三人”で来ようね――」
――まだお腹に宿ったばかり、小さな命を撫でた。
弾けるように胸から溢れ出る、彼女への愛おしさに、僕は彼女を抱き寄せる。
「きゃっ」
彼女のかすかな悲鳴と一緒に。
強く吹いた海風が、純白の帽子を空高く舞い上げていき――
―Fin―
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