――初めて彼女に出会った時。
彼女はそのフワフワの両腕に、おっきなクマのぬいぐるみを抱いていて。
公園の隅っこの茂みでじーっと、砂場で遊んでいる僕たちを見つめていた。
そこから全く動かずに、じーっと、ずーっと、僕たちのことを見つめていた。
でもなんだか、僕たちを見つめるその黒い瞳は、羨ましそうで、それでいて寂しそうな気がして。
だから小さな頃の僕は、彼女のところにトコトコと歩いて行って、それから声をかけたのだった。
『ねえ? そんなところにいないで、ぼくといっしょにあそぼう?』
今思えばその気はなくたっても、生まれて初めてのナンパだったのかもしれない。
けれど、そのナンパはドッキリバッチリの大成功。
差し出した手に一瞬身を怯ませてから、ギュっとぬいぐるみをキツく抱きしめ、顔を俯かせる彼女。
口をもごもご、何かを言おうとして、でも何も言えなくて。
泣きそうな顔を伏せている彼女に、また僕は呑気にも笑顔で言ったのだ。
『だいじょうぶだよ、ぼくがてをつないでてあげるから! ね、いっしょにあそぼうよ!』
思い返せばタラシも良いところだけど、僕の言葉は見事に彼女のハートを射抜けたようで。
彼女はぬいぐるみから片方だけ腕を離して、おずおずと僕の手を取ると。
『う……うん……っ!』
僕に向けてくれたのは、心の底から嬉しそうな。
僕がその日から、ずーっと彼女に夢中になってしまうぐらい。
とびっきり可愛らしい笑顔だった。
そして今。
僕も彼女も大きくなった、今日という日。
「……ぁ……ぅ……」
彼女はそのフワフワの両腕に、クマのぬいぐるみじゃなくて、様々な花で彩られたブーケを抱きしめ。
控え室の隅っこで、じーっと、ずーっと、恥ずかしそうに身を隠している。
相も変わらず、彼女は気が弱くて、とっても臆病で、口下手で。
だけど、昔よりもっと僕が夢中になるぐらいの美人さんで。
純白のウェディングドレスが、白い羽毛と黒い肌に、ため息が出るぐらい似合ってる。
「――お二人とも、そろそろお時間ですよー!」
入場のお知らせに、飛び上がりそうに身を跳ねさせて、プルプルと震え始めてしまう彼女。
――まったくもう……彼女ってば、こういう所はホントに変わってないなぁ。
苦笑交じりに僕は、彼女の元へとトコトコと歩いていき。
あの時と違って、ほんのちょっとの緊張と。
そして、強い誓いを胸にして。
彼女にそっと、手を差し伸べる。
「――大丈夫だよ、僕が手を繋いでてあげるから」
ハッとした目で見上げる彼女に、僕のできる精一杯の笑顔で。
「――ね、僕とずっと一緒に生きていこう」
ツー、と、彼女の瞳から頬にかけて、涙が一筋流れていき。
たくさんの言葉を言おうとして、だけど言葉にならず、飲み込むようにして。
僕に向けてくれたのは、心の底から嬉しそうな。
僕がきっと、これまでも、これからも。
ずっと、ずーっと。一生、彼女に夢中であるぐらいに。
世界で一番、とびっきりの美しい笑顔。
「――うんっ!」
――さあ。
ずっと一緒に、生きていこう。
おしまい♪
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