空から舞い降りた彼女は、俺を幸せにしてくれると言った。
『善良なそこのあなた! 天はあなたに可愛いエンジェルちゃんを遣わしました!』
それは、まだ俺が子どもと言っても良いぐらいの頃。
どしゃ降りの雨の中、傘がなくて困っていた人に傘を譲り、濡れ鼠になっていた俺に。
俺より少し年上かな、ぐらいの小さな身体に、少しだけ大きく見える翼をはためかせ。
『今日から可愛いエンジェルちゃんがあなたと一緒にいてあげます! これであなたは幸せですね!』
ドヤァ、となんだか癇に障る笑顔を浮かべると。
『あぁ、こんな可愛いエンジェルちゃんと一緒にいられるなんて! あなたはなんて幸せなんでしょう!』
そう言って、彼女は。
『さぁ、行きましょう! 早く帰らないと風邪を引いてしまいますよ!』
ずぶ濡れになった俺に。
小さいけれど、可愛らしい傘を差し出した。
『優しいあなた! 可愛いエンジェルちゃんがあなたを幸せにしてさしあげます!』
それから彼女は、ずっと俺の隣にいるようになった。
俺が喜んでいる時も。
『おや、テストで満点が取れたんですか? それも可愛いエンジェルちゃんが一緒にいるおかげですね!』
俺が怒っている時も。
『け、ケーキは可愛いエンジェルちゃんに食べられて幸せなはずですから! だからゴメンなさい、可愛いエンジェルスマイルに免じて許してくださぁい!』
俺が哀しんでいる時も。
『……大丈夫ですよ。例えご両親が神の元に還っても……可愛いエンジェルちゃんだけはずっと、あなたの傍にいます』
俺が楽しい時も。
『あなたの背も随分伸びましたねぇ……わわっ、いくらエンジェルちゃんが可愛いからって頭をグシャグシャしないでくださいよぉっ!』
彼女はずっと……俺の隣にいてくれた。
彼女が俺のところに来てから、けして少なくない時間が経った。
『ふふっ……可愛いエンジェルちゃんのお腹に、これまた可愛いエンジェルちゃんがいるなんて♪』
相変わらず小さな身体に、けれども大きくなったお腹を愛おしげに撫でて。
『可愛いエンジェルちゃんのパパになれるなんて……あなたは本当に幸せですねぇ』
相変わらずの、ドヤ顔。
ためらい無く俺は、彼女の額にデコピンを食らわせる。
『いたっ!? 可愛いエンジェルちゃんになんて仕打ちをするんですかっ!』
楽しげに笑う俺の前で、彼女は。
『ねぇ……あなた?』
あの日、傘を差し出したのと同じ。
天使の、その笑顔で――
『――あなたは、幸せになれましたか?』
――もちろん。
俺は、君のおかげで。
君のおかげで、こんなにも幸せになれたから。
だから、ありがとう。
ずっと俺と一緒にいてくれて。
『ふふっ……可愛いエンジェルちゃんも――』
『――わたしも、幸せです』
『『――幸せだね?』』
おしまい。
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