『私のクリスマスプレゼントになって欲しい』
そんな手紙が届いたのが、クリスマスの数日前のことで。
いったい何のことかと疑問に思っていた俺のところに、あのヒトがやって来た。
「あの……」
「め、メリークリスマス……」
「あ、はい。メリークリスマス……」
彼女はいつもの鎧姿と違って、ご丁寧に赤いサンタ服を身にまとい、だけど照れくさそうに少し視線を逸らしながら、俺にクリスマスの挨拶をしてきた。
普段は理知的で、冷静で、それでいてすごく格好良い女性。俺が所属している騎士隊の隊長で、俺の憧れの人。
その隊長が今日持っているのは、剣でなくて、バカみたいに大きい靴下だった。
「……手紙は読んだな」
「読みましたけど……あれ、もしかして」
「あぁ。あれを書いたのは……その、私だ」
「え……?」
まさか、彼女が俺のことを? ていうかクリスマスプレゼント? だからイブの夜にサンタのコスプレ? じゃあその、人がすっぽり収まりそうな巨大靴下って……。
ゴチャゴチャと考えていた俺だったけど、彼女が俺に向かって靴下の裾を広げたとき、想像が確信へと変わった。
「入れ。プレゼントは靴下の中だ」
「いや、おかしくないですか? 普通のプレゼントは吊るした靴下の中に、サンタさんが入れてくれるもので……」
「だから、プレゼントを靴下の中に入れに来た」
「いやいや、おかしいですって。サンタが靴下持って自分のプレゼントを詰め込みに来るって、まるで押し込み強盗か誘拐犯じゃ……」
「あぁもう、誘拐犯でも何でも別に良いだろう! 早く入るんだ!」
「うわっ!」
騎士隊の隊長から誘拐犯にジョブチェンジした彼女は顔を真っ赤にして、俺を頭から包み込もうと靴下を振りかぶった。
突然すぎる展開に靴下から身をかわし、彼女の脇をすり抜けて聖夜の雪景色へと駆け出していく。
「あっ、この! 待て、待たないか!」
「ゆ、誘拐されそうになったら逃げますって!」
いくら憧れの女性が相手だからといって、靴下の中に放り込まれるのはいただけない。
捕まるまいと逃げ出す俺のことを、背後から真っ赤な服の誘拐犯が追いかけてくる。
「こら、逃げるなっ! 大人しく私のプレゼントになるんだ!」
「大人しくなんてできませんよ!」
「もしや、もしかして、私のことが嫌いなのか!?」
「いや、そんなことは全く、全然! ホンットそんなことないっていうか、むしろ好きっていうか! えっと、その!」
「ほ、本当か!? 本当に私のことが、そうなんだな!?」
「あの、その、そうですけど!」
端から見れば痴話喧嘩か、単なるイチャツキにしか見えないだろう。
必死に彼女から逃げながらも、俺は顔を真っ赤にして、ニヤケ顔を晒して雪の上を走り回ってて。
それから後ろを追いかけてくる彼女も、やっぱり顔を真っ赤にしたまま、顔を綻ばせていて。
「ならどうして逃げるんだ! 家にはちゃんとチキンもシャンパンもケーキも用意してるぞ! あと、べっ、ベッドメークも完璧だぞ!」
「一緒に聖夜を過ごすならともかく、性夜を過ごすのは心の準備が欲しいです!」
「駄目だ、絶対に逃がさないぞ! 今日という日を私は心待ちにしていたんだ!」
それでも、ここで立ち止まって、彼女を抱きとめるわけにはいかない。
まだ彼女に、この気持ちをどうやってちゃんと伝えるか。
その言葉が、全然まとまってはいないのだから。
「ふふっ、観念しろっ! もう息が上がってるんじゃないのか!?」
「そんなこと! 貴女に鍛えてもらってるんだから、余裕です!」
「言うじゃないか、コイツめ!」
だから、まだまだ。
雪降る夜の中で。
まるではしゃぐ子供のように。
二人で、まだまだ。
こんな幸せな時がずっと続くようにと。
二人で、駆け回る。
◇
「そんな、貴女ほどのお方が……」
俺の驚愕の言葉が宙にむなしく消えていく。
教団でも高潔で屈指の実力を持った勇者であった隊長。
その腰から蝙蝠のような一対の翼が生え、頭部には羊のように曲がった角が天を向いている。
教団内にいた頃には想像できないほど妖艶な鎧を身に纏う、その姿はまさに堕ちた勇者だった。
「うふふ、私は魔王様のシモベに生まれ変わったの。もう勇者の期待にも戒律にも縛られず、思うままに行動できるの……」
そして彼女は捕らえた同僚のうつくしい肢体に指を這わせると、今度ははだけた衣服の中へとその指を侵入させた。
弄ぶようなその所業に同僚は眉根を寄せ、たまらず吐息を漏らす。
「うく……はぁっ……や、止めろ……」
「今は毎日が幸せよ。彼に想いを告げることも自由なの……あなたと違ってね」
『あなたと違って』。
そう言って俺と同僚を見比べるかつての勇者。
その言葉にうっすら上
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