我が家には妖怪『裸リボン』が住んでいる。
裸リボンは年に一回、クリスマスイブになると意気揚々と出現し。
真っ裸の上にリボンを巻いただけのあられもない格好で、自分をクリスマスプレゼントと言い張ってくる、ちょっと頭のネジが外れた妖怪だ。
しかも、ほぼ毎年。
毎年毎年、飽きもせず、自分をいそいそラッピングしてくる。
そのため俺は卑猥なプレゼントを返品すべく、毎年裸リボンのおでこを小突くのだが――
「おい、裸リボン。さっさと服を着るんだ」
「やぁです、お兄様」
「いいから服を着ろ」
「やぁです」
「服を着ろって言ってるだろ」
「やぁです、ウチは絶対にやぁですぅ……」
俺の足元で、布団に横たわりながらイヤイヤをする、狐耳と尻尾の生えた美女(ほぼ裸)。
これが裸リボン――別名『俺の妹の稲荷』だ。
裸リボンはこんな風に、俺が贈り物の受け取り拒否をする度、プレゼントの押し売りをしようと頑なに抵抗するのである。
更に性質が悪いことに、いつも泣きそうな顔で、でもちょっと興奮したような赤みの差した顔で。
それからしばらくイヤイヤをすると、裸リボンは決まって次の行動に移る。
目に涙を溜めながら、俺のことを上目遣いで見上げ、首を傾げ。
お胸の豊かな双球をとめる結び目に、手をかけると。
そのリボンを、シュルシュル。
シュルシュル、シュルシュルと、解いていく。
「……それは何の真似だ?」
「えっち、です。お兄様と、えっち、です」
これは裸リボン、第二の習性だ。
裸リボンは聖なる夜を性なる夜に上塗りすべく、俺のことを全力で誘惑してくるのだ。
なので俺は、こいつからマトモなプレゼントを貰った記憶がない。必ず、自分をプレゼントだと言い張っているというわけである。
……やってることはそんなに子供の頃から変わってないのだけれど。
「お前、ホント身体だけは立派に大人になったよな」
「うふふ……立派な赤ちゃんを産めます。もちろん、お・に・い・さ・ま・の
#9829;」
確かに、裸リボンは昔と比べものにならないくらい大きくなった。
鉄の意志と鋼の強さがなければ、間違いなく俺は欲望の赴くままに、裸リボンの豊満な肉体を貪っているに違いない。
しかし、こいつの脳の方は残念ながら退化してしまっているらしい。
俺の記憶にある限りだと、一番古いクリスマスプレゼントも妹自身だった気がする。
その時はまだ、この娘も頭にリボンを着けてるだけで、すごく可愛らしい様子だったはずなのだが。
「俺が中学になる頃には、もう別のプレゼントをくれって言ってなかったか?」
「やぁです……お兄様にウチの初めてを捧げるまで、ウチは絶対に諦めません……」
過去、俺もこいつがもう少しマトモなクリスマスプレゼントをくれるようにと、あれこれと手を尽くしたこともあった。
その結果はご覧の通り、完全なる失敗。
毎年のように着ているものが1枚ずつ薄くなっていき、終いにはブラジャーもパンツも脱ぎ捨てるようになったのは、俺が高校生の頃だったっけか。
ならばと、俺も心を鬼にしてより厳しい態度を取るようにしているので。
「……お前の言うことは分かった」
「お兄様……っ!」
「それじゃ、俺は今から一人でイルミネーションを見に行ってくるから」
「――っ!?」
「ナンパの心配はしなくていいぞ。お前とのツーショット写真を見せるだけで全員諦めるからな」
明るくなりかけた表情が一転、絶望に叩き落される裸リボン。
「そういう事で。勝手に設定された待ち受け画面も、こういう時は役に立つもんだ」
「ぁ……ぁ……」
手を振って、俺が部屋の外へと足を踏み出しかけると。
遂に裸リボンの行動は第三段階へと移る。
……もう、いったい何度、何年繰り返せば気が済むんだろうか。
「うっ……ひっく……ひぅっ……」
「やぁです……やぁですぅ、お兄様ぁ……行ったらやぁですぅ……」
「ウチを一人にしたらやぁですぅ……」
「お兄様ぁ、お兄様ぁ……」
裸リボンはリボンを握り締め、布団に頭を突っ込みながらうずくまり。
シクシクシクシク、今度は本当に泣き出すのである。
身体を小さく震わせ、尻尾がパタン、パタンと哀しそうに床を叩き。
嗚咽を漏らして、俺のことを呼び続ける。
ウソ泣きかと疑う余地なんて一切ない、清々しいまでに、正真正銘のガチ泣き。
……既に裸にリボン姿の時点でガチ引きしているので、この程度ではあまり動揺もしなくはなっているけれど。
それでもやっぱり、こいつが泣いていると俺は、なんとか泣きやませないとと兄心がウズウズしてしまうわけで。
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